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【日本商業新聞 コラム】心意気と美学 -647- 2024年問題

 日本の農業は70歳以上の老人が担っている。団塊農耕派は50歳で実家に戻ったが、「若い人が戻ってきた」と喜ばれ、70歳を過ぎた今でも地域では若造扱いされている。米作りは辛いが、荒れる田んぼを見るのがいやで、老骨に鞭打っている。買って食べたほうがよほど経済的なのだが。


 かように田舎には老人しかいない。介護施設に入るお金は持っていても肝心の看てくれる人が居ないという皮肉な時代が来そうで、団塊農耕派はその先兵になるかもしれない。団塊の世代はいつも時代の中心に居て、得ばかりしてきたが、最後の最後にどんでん返しの大不幸が待っているようだ。



 トラック業界では2024年問題というものがある。運転手が居ないのだ。我が世の春を謳歌してきた黒猫さんも一部の業務を日本郵政にゆだねるという。その郵便屋さんだって配達する人が集まらず、毎日の集配ができないどころか、そのうち配達は週一くらいの頻度になりそうだ。木曜に出した郵便は火曜日にならないと着かないことを最近になって知ったが、手紙の持つ情感やアナログ性を味わっている人たちは世も末だと思うだろう。


 いわゆるエッセンシャルワーカーと呼ばれる人が少なくなり、人のふんどしで相撲を取るこざかしい人種が増えたことがこの危機の原因の一つだが、このひずみを正すには国策としての荒療治が必要かもしれない。簡単なことで、人が居ないのならどこからか来てもらえばいいし、無駄なところで働いている人が多ければ職場を変えてもらえばいい。しかし人権に関わる問題でもあり、民主主義国家が職業のふるい分けに参画することなど絶対にできないわけで、エッセンシャルワーカーになることが得になる何らかの仕組みを作り、少しずつ是正していくしかない。


 少子化は確かに労働人口の不足につながるが、それでもヒトがいないわけではない。ひきこもりの若者は数十万人もいるし、70過ぎても労働意欲のある人はたくさんいる。単純な仕事を見下す高慢な人も、そもそも働くことが嫌いな怠け者も、今の世の中にはわんさといる。毎日受信するメールの大半はフィッシング詐欺もどきだし、掛かってくる電話の大半は悪意のある勧誘だ。これは明らかに労働人口の悪質な浪費といえる。そう日本には想像を絶する数の「さまよう労働者予備軍」が眠っている。彼らが生き生きと働ける労働環境ができれば、その後は出生数も上がり、これからの日本が労働者不足で悩むことはない。悪の道に入りこみ、反社会的な仕事をしている若者が更生してくれるだけでも相当な労働力をねん出できる。


 そのためにはまず世の中が変わらなければならない。道を外した若者、勝手に落ち込む若者、彼らは今の世の中に生きがいを見いだせないだけのことだ。賃金でも福祉でも教育でもいい、若者にとって魅力のある労働環境を作りだしてあげれば本人と社会の間に良循環が始まる。一方で法的な問題はなくても世の中には好ましからざる職業はわんさとある。これらを廃業に持ち込む知恵を国も国民も持ってもいいと思う。

(団塊農耕派)

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