top of page
  • 日本商業新聞

【日本商業新聞 コラム】心意気と美学 -637- 4つの開発者気質

 入社試験の面接を何度もやったが、団塊農耕派と会社では「化粧品の開発担当者の資質」の考え方がかなり違っていた。


学校の成績が良く、風貌が爽やかで、自分の将来を語れ、会社を褒めちぎれば大方は入社できたが、団塊農耕派はずっと違和感を持っていた。


でもそれは多勢に無勢で、気がつけば優等生ばかり集まり、団塊農耕派が合格点を付けたヘンな奴はことごとく落とされていった。その後会社はかつての個性と栄光を失っていくが、その最大の要因は〝化粧品会社なのに当たり前すぎる採用方法〟にあると思っている。



 団塊農耕派は商品開発には4つの気質が大切だと常々思っている。化粧品は基幹産業ではないし、学術的な深みもそれほど求められないし、国家試験も要らないのだから、役人や基幹産業の社員に求められる資質と違ったものになるのは当然だと思う。


 まずは本コラムのタイトルでもある『心意気』である。化粧品が大好きで、使ってくれるお客様や伝えてくれるお店の人のことを深く慮る度量を持ち、一方で価値作りの最先端に居るという喜びと誇りを持ち続ける気概、それを心意気と呼べば、開発マンにとって一番大切な資質となる。MG5やナツコ、これら一世を風靡したブランドの開発者を良く知っているが、「心意気」は彼らを語るにもっともふさわしい言葉だ。


 次が『基本動作』である。行き詰った時に原点に戻る習性があれば必ず道は拓ける。戻れば伝統のある会社には必ず良好な遺伝子が残っており、迷い道から抜けることができる。障害者雇用促進のために多くの企業は特例作業所(工場)を作って単純作業を任せているが、そこには自社工場のスタート時の魂が宿っていて、健常者が運営する最新工場で事故が起きた時にも解決のヒントを提供することができる。販売面においても昨今のメーカーは古きよき時代のお店との蜜月関係を忘れ、営利に走る傾向があるが、改革を立案する時、今一度それが原点を踏み外したものでないことを確認して欲しいものである。


 3つ目が『越権行為』である。ネガティブな言葉として捉えられることが多いが、化粧品産業が感性の産業であることを考えれば、この言葉の大切さは増してくる。そもそも化粧品設計の決定権を初老のジジイが持つこと自体が不自然であって、若い人が決めてしまうことがあってもいいし、上司はそれを黙認する大きな心を持ってほしい。若い人も叱られるのは恐れてはいけない。売れる商品につながれば「私が指示をだした」と言って手柄を横取りする、それが上司というものなのだから気を使うことは無い。


 最後が『ユーモア』である。記者発表やセミナーで面白く語れという意味ではない。ユーモアは開発の段階で欲しい。コンセプトと商品に入れこんでほしい。ユーモアは感性の機微を増幅させ、思考の範囲を化粧品らしい方向に広げてくれる。かつて資生堂はイグノーベル賞を受賞するようなユーモア心あふれる会社だったが、今その面影はない。車のハンドルに遊びが必要だと言われるが、遊び心が商品価値を高めるという事実もある。3人のはげ頭の研究員が育毛料の研究発表をしたことがあったが、それもユーモアには違いないが、売り上げを落とすユーモアは御免被りたい。

(団塊農耕派)

bottom of page