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【日本商業新聞 コラム】心意気と美学 -633- 改正マイナンバー法

若い頃、会社で何度か昇級試験を受けたが、出される問題の出来の悪さにあきれたものだ。


労働基準法の問題が中心だったが、設問内容がわかりづらく、いろいろな解釈ができ、答えはいくつも考えられた。結局、出題者の望んでいそうな答えを想像して書くので、ときに高度に解釈しすぎて誤答してしまうこともあった。すでに人事のベテラン担当者より大学入試などでもまれてきた若手社員のほうが知的レベルは高く、団塊農耕派が体験したこの種の苦労はこの時期多くの社員が共通に味わっていた。団塊農耕派の昇級が遅れたのがそのせいだとは言わないが。


 化粧品業界の過渡期だったのだと思う。急激に頭でっかちな高学歴社員が集まり始めたのはこの半世紀くらいのことで、その前は職人気質の実直なおじさんと、お色気たっぷり、タバコスパスパのお姐さんで溢れていたのがこの業界だった。学科試験よりも円満な人間性が重んじられ、なまじ頭が良いと閑職に追いやられていた。


 それでも会社は時期が来れば社員の評価をしなくてはならず、公正に見せる為にしぶしぶやったのが団塊農耕派の受けたような試験だった。すでに合格者は決まっており、その人がこのテストでよほどひどい点を取らない限り結果が覆ることは無かったように思う。問題を誰がつくったかは分からなかったが、おそらく人事担当の部署が苦心しながら作ったのだと思う。外注するよりマシだが、その出来栄えは使う前に検証してもらいたかった。


 化粧品の薬事を制定したり、広告を取り締まる部署にもそういう傾向がある。「オーガニック係数」「耐水性☆☆」など緊急性の無いものまでいろいろ思いついて規制してくるが、細部まできちんとルールを決めずに拙速に実行に移すので、それを守る体制ができていない企業は困り果てる。結局走りながら内容の正邪が判定され、違犯と判定されれば懲罰が待っているわけで、企業は無難な路線を選択するしかなくなる。ネズミ捕りで違犯切符を切られるドライバーの気持ちと一緒で、「よけいなことを!」のひと言も言いたくなる。


 その最たる出来事が「改正マイナンバー施行法」の制定かもしれない。団塊農耕派は既にカードを作っているが、それはこの制度に賛同しているからではない。制度化が強行されたとき、役所の混雑が予想されるので、空いている時期にカードだけでも作っておこうと考えただけのことで、国の考える諸機能への紐付けなどは何もしていない。


 ところがマイナポイントの誘惑に負けて種々の紐付けに応じた人が少なからずいるが、いろいろな不具合が発覚している。他人の薬の処方箋が入っていたり、公的年金の受給者が家族だったり、デジタル化を急ぎ過ぎたとしか思えないミスが続いている。あってはならないミスだが、政府はまだ「仏作って魂入れず」の状態ではないかと批判されているにもかかわらず、強引に法律を国会で通してしまった。来年から紙の保険証は使えなくなるというから日本のお年寄りの気苦労は小さくない。設計ミスの怖さよりデジタル化の遅れを批判される怖さのほうが大きかったわけで、施政者として落第だが、デジタル化そのものは進めなくてはならないのだから、国民は流されてみるしかない。

(団塊農耕派)

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