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【日本商業新聞 コラム】心意気と美学 -632- 世襲

小泉進次郎さんが世襲制への批判に対して「政治家は選挙で選ばれている。歌舞伎役者や落語家とは違う」と答えたが、見当違いの失礼な意見だと思う。政治家は親の七光りでその地位を難なく得て、あとは神輿に乗っていればいいが、歌舞伎役者や落語家は襲名後も日々血のにじむような努力を重ねている。仕事に対する真摯さが違う。


 岸田総理の息子が公私混同を繰り返した末、政務秘書官をクビになった。そうなると待ってましたとばかり政治家の世襲の弊害がマスコミに取り上げられる。


 日本の選挙の積年のひずみで、何度も繰り返されてきた議論だが、そろそろこの問題にもピリオドを打つ時期が来たのかもしれない。総理が息子を秘書官にしたのは後継者として育てたいからに他ならず、これはあからさまな身勝手人事だが、日本国民はそれほどのアレルギーを感じていない。それどころか息子が当選すればこれからも熱い支援を約束するし、亡くなった政治家の代わりに奥様や娘が出馬すれば、弔い合戦と称して仁義を尽くし、当選すれば感動の涙を流す。〝おらが村の先生〟を仰ぐ気持ちは相当に強い。


 そんな国民性だから、この20年で日本の総理大臣9人のうち6人が世襲政治家だった事実にも目をつぶっていられた。でも一方でそんなえこひいきが許されていいはずは無いという良心も持ち合わせており、何らかの痛みを伴った改革が行われても仕方ないと思っている。


 イギリスでは政治家の質を高めるために、2世は親の地盤以外から出馬するのが普通で、結果的に世襲政治家の数は激減しているという。日本にもそんなルールができればいいと思う。ちなみにサッチャーさんは雑貨屋の娘、メージャーさんはサーカス芸人の息子、メイさんは牧師の娘で、親に頼らず、自分のチカラで首相に昇りつめている。日本の政治家の多くが政治家の息子や娘だと聞くとイギリス人はびっくりするそうだ。


 名門の家系を維持するために息子に後を継がせたいと思う親の気持ちは分からないでもないが、肝心の息子はそれを嬉しく思っているのだろうか。


 2世議員に知り合いがいないので聞くことはできないが、会社勤務のころ、似たような質問を会社の同僚にしたことがある。会社には親子や親族がたくさんいて、中には親子ともに役員になった人もいた。「どうしてお父さんと同じ会社を受けたの」「恥ずかしくないの」単刀直入な質問だったが、回答はいずれも明快だった。「ぜんぜん気にならない」「父は父、自分は自分」


 団塊農耕派には考えられない回答だったが、それだけの信念をもって会社を愛し、親を尊敬しているのだと思うと、それと真逆に居る自分が恥ずかしくなったものだ。親の七光りではなく、自分の意思で入社した人をむしろ尊敬するようになってしまった。


 化粧品専門店の跡取りも『世襲後継者』と言える。政治家ほどのうまみが無く、世襲を嫌がる人も少なくないようだが、化粧品専門店には世襲の良さをぜひ社会にアッピールしてもらいたいものだと思う。


 歌舞伎役者が親や師匠をみて成長していくように、専門店には先代と言うお手本があって、世襲がうまくいく土壌がある。誇るべき環境だと思う。化粧品と地域の人が大好きならば、それだけで立派な世襲後継者になれる。

(団塊農耕派)

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