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【日本商業新聞 コラム】-751- 漢方コスメ

  • 日本商業新聞
  • 17 時間前
  • 読了時間: 3分

「西安(長安)は昔より皇族・貴族の保養地であり、中国の歴史の中で最も美しく繁栄していた唐の時代の都である。シルクロードの出発点として有名だが、漢方の故郷でもある。敷地10万坪の迎賓館が西安郊外にある。黄土や砂漠のこの地にあって最も緑が豊かな所で、外国の国賓や中国の要人達が滞在場所として利用する。傍には病院が併設されていて、必ず問診・脈診・舌診・耳診・経路診断・総合診断の6項目にわたり診察し、種々の治療、気孔指導、生活指導などが行われる。敷地内では至るところで四季の花が咲き、野鳥のさえずりが響く。特別な場所なので人の姿はほとんどなく、まるで現代からかけ離れた別の空間のよう。何もせず散歩するだけで健康が取り戻せるのではないかと思える。」



30年前、漢方化粧品を創りたい私に届いた手紙である。好奇心をくすぐるものだった。アポなしで訪ねてみることにした。風貌が中国人的であったことから怪しまれずに済んだ。


西安はスモッグと砂ぼこりの町だったが、市内を抜けると風景は一変する。崩れかけたレンガの家、道端に佇む老人と子供、そして鶏、あたりは一面の麦畑、行き交うのは何と馬車、日本では見なくなった前の膨れたトラックが白菜やザクロの実を満載して前日の雨がつくった泥溜まりをはねていく。そんな状況がうんざりするほど続いたあと、突然左手に白い壁が現れる。銃を持った憲兵らしき人が両側から寄ってきた。これが迎賓館である。


「入れないかも!でも入れてほしい!」この葛藤は通訳の一言で救われる。「買収しよう」。自分にも命の危険があると言う通訳にも100元を渡し、交渉開始。〝30分間、写真撮影なし〟の条件でOK、握手までして中に入る。共産圏なんてこんなものか、思わず笑いが出る。



別世界だった。竜宮城に迷い込んだ浦島太郎のよう。ユートピアとでも表現しようか、こんな辺鄙な所に夢の世界があるとは中国国民も知らないのでは。よく作ったものである。


病院は竹林の中に在った。小さな木造の建屋で、中国で見たどの病院より小ぎれいだった。玄関脇に応接があったが受け付けの女性はぐっすり眠っていた。そっと入るといろいろな人体図が張られている部屋、何の設備もなく窓が開けっぱなしの診察室、顕微鏡が1台だけの不思議な部屋、そして小さな図書室…。2階に上ると気孔教室、漢方入門教室など、日本語で書かれた小部屋が5つほどあった。誰もいない。休業中の病院のようだった。


日本の田舎の町病院のような雰囲気だが、市民には開放されていなそう。この病院に来る人はおそらく中国の高官とお金持ちの観光客。ならばここは手紙で勧められたようにホリスティックケアブランドの発信地になりうる。「日本で漢方コスメを作って、上客を西安の迎賓館に招待し、本格的な漢方治療を受けてもらう」このころアベダは保養地にスパをつくり、アーユルベーダの世界を体現していたが、似たようなことができると思われた。



その後どうなったかは私の在籍していた会社の今を見ればわかる。開発する化粧品に漢方テーストやオーガニック、そして内外美容の要素が少しずつ反映されるようにはなったが、主流は相変わらず西を向いている。「和魂洋才」は相変わらず言葉遊びの域を出ていない。本格的で洗練された漢方コスメは「日暮れて道遠し」と言ったところか。

(団塊農耕派)

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