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【日本商業新聞 コラム】-717- コンプライアンスの実態

  • 日本商業新聞
  • 3 日前
  • 読了時間: 3分

Ki社は化粧品をほぼ毎日小売店に発送している。指定された日に届け、お店の商売に穴をあけない努力をしている。ところが年末やゴールデンウィークになると決まって宅急便会社から遅配予報が入る。


「希望日までに届けて欲しければ○日前までに依頼してほしい」と親切心を装うが、安い法人料金の恩恵を受けているKi社にとっては脅しに聞こえる。連休がかきいれどきになるお店にとって迷惑千万なのだが、Ki社はその指示に従うしかなく、一店一店遅れることをお詫びして納得していただくが、緊急のニーズに対しては黒猫サンや郵便局に高い個人料金を払ってお願いすることになる。



今年、はじめてこの会社を疑ってみた。4連休の前日に発送したら本当に連休の初日に着かないのか試してみた。近郊の例として神奈川県、遠隔の例として広島県に送ってみた。結果は2件ともこちらの予想通り連休初日に荷物は無事届いた。遅配になったときのことを考えてこの会社は予防線を張っていることが証明されたが、それを非難する気持ちはない。


でもどこか腑に落ちないものが残る。過剰防衛して事故を未然に防ぐ風潮はあらゆるところで散見される。コンプライアンス遵守が企業の生命線と言われ始めた頃からその傾向は顕著になっている。



前号ではホワイト過ぎる企業風土が若者の就業意欲を削いでいることを書いたが、それまでブラックの要素を少なからず持っていた日本的経営手法の会社が手のひらを返したかのように優しくなり、鬼の課長が猫なで声で若手に近づくようになった背景には、会社あげてコンプライアンス意識の向上に取り組む動きがあったからだと思う。しかし外来種の付け刃的な意識改革に、年配社員は本音を隠すのに四苦八苦し、若者はその緩い社風を不安視し退社を選択してしまう。コンプライアンス神話の負の側面は小さくない。しっかりと見極めないと企業は活力を失う。



コンプライアンスの遵守と「保身」はある意味でベクトルが同じかもしれない。本コラムに日航を使ってラオスに行った頃の話を書いたことがあるが、まさにその典型といえる。途中バンコクでラオス航空機に乗り換えるのだが、日航は客に荷物を一旦受け取り、再度ラオス航空に預け直すことを強要する。この作業がボランティアで沢山の荷物を持ってラオスに向う老人たちにとっていかに過酷であるかを理解しようともしない。そして団塊農耕派を怒らせた一言を発する。「日航はお客様の大切なお荷物を管理の甘いラオス航空などにお任せできません」



一見親切な措置のように聞こえるが、明らかに責任回避の為の高飛車な予防線で、お客不在の血の通わないルールと言わざるを得なかった。喧嘩腰の調整が実り、荷物はバンコクをスルーできたが、日航に言わせれば「カスハラの客に負けてコンプライアンスに反した行動をしてしまった」と言うことになるのだろう。


コンプライアンス遵守を叫ぶ昨今の企業の大半は、その目的が企業の存続の為にあり、社会的使命に基づいていない。嘆かわしい話ではある。

(団塊農耕派)

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