【日本商業新聞 コラム】-758- 男女5人夏物語
- 日本商業新聞
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「男女7人夏物語」よりも前にあったお話です。
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そのころ工学部の女性は恵まれていました。希少価値ゆえに分不相応にモテました。理系の男性は恋愛免疫が無く、〝あばたもえくぼ〟に陥りがちで、卒業と同時に束縛されてしまうケースが珍しくありませんでした。
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研究室のオンナヒデリは伝統的でした。唯一の女性、A子は研究助手でしたが、希少価値の恩恵に浴することも無く、研究しか興味の無い男どもに混じって夜遅くまで実験の手伝いをしていました。A子と私は田舎が一緒でした。
同い年でもあり、当時のA子にとって私は一番近くに居た存在だったのではないかと思います。だから必然的に私との会話が多くなったのですが、それを妬いた男が居ました。1年先輩のH村です。
美男子である上に由緒ある家柄で、都内の自宅から大学に車で通っていました。そんなH村が地味なA子に惚れたのですから研究室のメンバーや彼の同級生は〝七不思議〟と言っていぶかしがりました。
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そんな中、研究室に4年生の女性、B子が入ってきます。まさに「はきだめに鶴」、男どもは異物の出現に戸惑いました。昭和46年4月のことです。
B子は神戸の大病院の長女で、これまで私が見てきた工学部の女性としては明らかに異質で、天性の華やかさを身につけていました。B子がH村に惹かれるのは時間の問題でした。世間常識的にはお似合いのカップルでしたが、H村は近寄ってくるB子を無視し続けました。
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夏前、就職を決めたH村は勝負に出ました。A子にプロポーズをしたのです。A子は驚きましたが、即答しました。「私とはつり合いません。もっとふさわしい人と…、」
実はA子はH村が嫌いではありませんでした。本当は「嬉しかった」と後日私に打ち明けました。それでも彼女は「身分」という言葉を使って応じられない理由を泣きながら語りました。呼ばれて行ったH村の実家で味わった母親の見下すような眼差しに、住む世界の違いを感じたという彼女を説得するすべを私は持ち得ていませんでした。
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そのうちH村の車に乗り込むB子の姿を見るようにはなりましたが、二人の仲が深まることはありませんでした。ところがそのB子に思いを寄せる男がいました。H村の同級生のU田です。
それまで健さん映画の〝無愛想〟がコンセプトだった男がB子が入ってきて以来、人間が変わったかのように上品な振る舞いを見せるようになり、研究室仲間を驚かせたのです。私と一緒に毎週通っていた府中競馬場行きも止めていました。
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「万博のついでに私の家に遊びにいらっしゃいませんか」夏休みに入る直前、B子が私に言いました。彼女の目論みは直ぐにわかりました。私に言えばH村を誘ってH村の車で神戸まで来るだろうと踏んだのです。私は彼女の希望をかなえてあげました。でも満額回答ではなく、50点に収めました。車の後部座席にはU田が座っていました。
神戸では、そして帰ってからも事態に進展はありませんでした。そして50年、5人は別の世界で生きています。私が化粧品会社に就職したのはオンナヒデリの研究室から逃亡したかったからにほかなりません。だれも縁を結べなかった「男女5人夏物語」ですが、さわりだけでも呆けて忘れないうちに書きとどめておこうと思いました。
(団塊農耕派)



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