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【日本商業新聞 2025年9月29日号】重要度増す「リアル体験」

  • 日本商業新聞
  • 9月30日
  • 読了時間: 4分

様々な業界において、リアル体験の重要度が今以上に増している。それはこの化粧品業界でも同じだ。


店頭でのリアル体験提供は重要なことで、それを可能とする美容部員の力は、生活者が化粧品の購入を決める最後の後押しであり、ブランドの魅力を伝える最大の武器でもある。


数多くのメーカーがデジタルの力を活用した取り組みで効率性を高めるだけではなく、差別性も打ち出している。ただ、それらの取り組みが当たり前となった時、次に大切なのは何か。


記者は美容部員の力量や魅力であり、その時に提供されるリアル体験が大きな鍵を握ると確信している。(半沢健一)



■武器は美容部員の「力」


9月19日に花王グループは、東京中央区日本橋の花王本社で報道関係者向けに「花王グループ化粧品事業成長戦略説明会」を実施した。


同社執行役員 グローバルコンシューマーケア部門 化粧品事業部門長の内山智子氏が化粧品事業の成長戦略と今後の構想について詳しく説明。詳細は2面以降で掲載しているので一読してもらいたいが、注力6ブランドに取り組み、「成長する力」「稼ぐ力」「スリム化」の3つで原資の獲得と投資の循環システムを実現し成長と収益を両立させることで成長拡大へのフェーズに進んでいくと力強く宣言した。


今回の説明会では、強力な研究開発力と安定した成長戦略を強みとしてきた花王グループが課題にしてきた海外展開に取り組み、化粧品事業の本格的な成長をめざす強い姿勢を示したもので、どこまで早期に実現させることができるのか期待させるものがあった。


その説明会の中で内山氏は化粧品事業でのさらなる成長に向けての事業基盤構築と事業の持続的成長の叶えるため、重要ポイントとして、「商品カテゴリー」「販売力最大化」「SCM効率化」の3つを挙げたが、この中で記者の関心を引いたのが「販売力最大化」と「SCM効率化」の2つだ。


ここでいう「販売力」とは「人」で、つまり専門スキルを持った美容部員を指す。販売員が膨大なブランド知識を習得するための負担を減らし、自信を持って接客するための下支えとして取り組むのが「SCM効率化」で、「流通」「マーケット」「接客カウンター」「生活者からの声」等の膨大なデータを取りまとめ、必要に応じて的確な情報を引き出せる仕組み

を構築していくと説明した。


要は美容部員の店頭活動にデジタル活用し、そこで生み出された時間や手間を接客やカウンセリング、提案力に活かし、「販売力最大化」へつなげるという、リアル体験の強化を狙いとした施策ではないかと感じた。



■ファンを増やすことに直結


先日港区高輪に新たな商業施設として「ニュウマン高輪」が開業したのは記憶に新しい。開業前に実施された内覧会で、同店/鈴木和馬店長が施設開業の狙いを「特に大事にしたいのが圧倒的なリアル体験価値の提供。単にショップやブランドを展開するだけでなく、施設全体の体験価値に落とし込む」とリアル体験の重要性を語った。


店頭活動に従事する美容部員の持つ力は、生活者が化粧品の購入を決める最後の後押しになるのと同時に、ブランドの魅力を伝えるための最大の武器でもあり、それがブランドやメーカー、さらにはお店のファンを増やすことに直結する。


この数年、数多くのメーカーがデジタルの力を活用した取り組みに注力している。効率化だけでなく、差別性を高める活動として積極的に取り組まれている。ただ、いずれはデジタルを活用した取り組みもスタンダードなものとなった時、改めて販売力、つまり美容部員の力量や魅力が今以上に重要になってくるのではないのか。繰り返しになってしまうが、店頭で化粧品を購入する際、最大の武器となるのは美容部員の力量や魅力で、その時に提供するリアル体験が大きな鍵を握る。


今後益々、化粧品業界での競争環境が厳しくなるのが間違いない中、ブランドとして、メーカーとして独自の存在感を放っていかなければならなくなった時、大きな武器となるのが美容部員の力による「販売力」といえる。そして、今回明らかにされた事業成長戦略に込めた一つの意図がそれではないのだろうか。

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