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【日本商業新聞 2025年9月15日号】デジタル戦略「専門店の声」

  • 日本商業新聞
  • 9月16日
  • 読了時間: 8分

9月8日号に既報の通り、アルビオンが2026年1月から実施する「デジタル戦略」についての詳細が発表された。これにより、資生堂をはじめ、コーセー・カネボウ・アルビオンの大手制度品化粧品メーカー4社がEC事業に参入することとなる。この発表を受け、日本商業新聞では化粧品専門店の経営者にアンケートを実施。アルビオンのデジタル戦略についての率直な感想、また先行してデジタル戦略を行っている各メーカーへの意見などについて、店頭の生の声をお届けする。(中濱真弥)



■アルビオンらしさ届く - 店頭への想いと姿勢に賛同集まる


まず、アルビオンのデジタル戦略に対する化粧品専門店から見た総括としては、全体的に【ポジティブな印象を受けた】【アルビオンらしいデジタル戦略だと感じた】と、前向きな声が大多数を占める結果となった。その最も大きな要因としては「アルビオンのデジタル戦略は、店頭活動を〝補完〟する位置づけであることが明確に感じられた」との見方である。


某業態店経営者は「前回の説明会の際に、専門店が望むデジタル戦略に対する考察を述べさせていただいた。具体的には、ポイントの交換は一部を値引きするのではなく、交換としてお店の売上として計上してほしいこと、またその清算は仕入れで相殺して欲しい、店頭有利なポイント付与、交換は店頭のみ…、などなど様々な申し入れをさせていただいたのだが、かなりの部分を採用していただき本当に嬉しく思っている」というように、デジタルプラットフォームをつくるにあたり、メーカー主導ではなく、しっかりとお店の意見を聞いた上で、店頭(リアル)を優先した戦略であることが、専門店から多くの賛同を得た大きな背景として挙げられる。


その他にも、次の通り賛同の声が続々と上がってきている。


「店頭へのキックバックが思いのほか大きな還元率で、良い意味で意外だった」


「ブランドイメージの強化というのは取扱店にとっても大きな意義がある。更には、ただCMや宣伝を投下するのではなく、店頭活動を主体としてイメージを創り上げるために資本を投資するという方向性は素晴らしいと感じた」


「リアルを優先した基本設計となっていることから、公式ECと専門店の間で競合関係が起こることは少ないと感じる。それに伴い、会員登録などにおいて、店頭スタッフから前向きな協力が得られることは間違いなく、導入がスムーズに進むことも期待できる。また認知拡大策の期待感も大きい。始まってみなければ分からないという前提があったとしても、私個人の意見としてはポジティブな印象を受けた」


「店頭で購入したものに対して、アルビオン独自のポイントが付与されることにより、お客様には自店のポイントとのダブルでのポイント付与となりお得感が増す。またネットでの購入でもポイント付与となるが、そのポイントも店頭でしか使えないのでお店の送客になるのも嬉しい」


「ロイヤルティプログラム、オンラインストアでのインセンティブ施策共に化粧品専門店の会員を大切にする姿勢が伝わった」


「ネットで購入した一部がお店に還元される、またお店でポイントが使える点は素直に評価したい」


以上のように、賛同並びに期待点においては、アルビオンとしての認知度を上げていくデジタル施策を強化することで店頭を活性化させ、ひいては「専門店の利益向上に繋げたい」というアルビオンの姿勢と想いが届いた結果だと言える。


一方で不安要素として感じていることは次のとおり。


「マイページ登録をしなければポイントが使えない仕組みであることから、ご高齢のお客様などネット環境に慣れていないお客様には高いハードルになるだろう。ただ、これについてはコーセーが先んじて同様の手法を行っていることから、コーセーで慣れているお店は問題ないと感じている」


「独占禁止法上、ネット販売を限定出来ないことから、百貨店や専門店の中で条件をクリアしたお店はネット販売が解禁となる。今後は値引きクーポンを同梱したり、過剰なサービスを控えてもらえるのかなど、契約の履行をしっかりと見守ってほしい」


「既にそうなっているお客様もいるのだが、お客さまが過度なポイント依存になる可能性がある」


「商品交換は目立つ立地の店舗が有利になるだろう」


「オンラインの方が敷居が低く買いやすく、リアル店舗とオンラインのポイント差分も大きくないため、オンラインに顧客が流れてしまうのではないか」


「ポイント交換は店頭での現品交換となるが、処理方法と在庫管理の観点から、店頭作業が煩雑になることは間違いない」


「ステータス特典の2倍、3倍クーポンも1回限りはどうかと思う」


 といった声が寄せられた。



■購買客層の底上げ期待 - 店舗の魅力向上や発信強化を


またアルビオンのデジタル戦略をただ受け身として考えるだけではいけないというお店も。


「店側もデジタル戦略を受け、『せっかく買うならあのお店で』と思っていただける努力が重要になる。店舗や店頭活動の魅力をいかに作れるか、これがこれからの売上を左右すると思っている。ブランドイメージが高まれば必然的にアルビオンユーザーが増えることから、購買客層の底上げに期待しつつ、今までにない魅力を発信できる店舗に変わっていけるかどうか。これから益々店舗による格差が出てくるだろう」


「地方のオンリー店においてはとても重大かつ重要な施策となる。とくにCMの効果は高いと考えており、同時に店頭での発信も必要だ。一気に認知度を上げるためにも、1~2カ月の期間宣伝を行ってほしい。要は、メーカーと店舗が最大限協力して認知度拡大に努めることが重要で、出来るだけ店舗でも使えるデジタル素材の提供をお願いしたい」


など、デジタル参入を機に、店頭での認知拡大も同時に行っていくという意気込みをみせるお店も出てきている。


総括すると、一部不安要素や店頭との連携において細かなブラッシュアップが必要な点はあるものの、専門店にとっても追い風となる政策が多く、アルビオンの認知拡大、あるいは離脱客の復活への期待感が高まっている。



このように、今回のアルビオンのデジタル戦略は、今後の専門店流通におけるデジタル施策の指標になっていくのではないかと見ている。その上で次の段階として考えられるのが他メーカーの動きだ。


先行してデジタル戦略を実施しているメーカーに対する意見を聞くと、総じて「各社、デジタル戦略を立案する本社チームと店頭活動を行う現場の動きがチグハグになっているように感じる」と捉えているお店が殆どで、その要因としては、やはり店舗で購入するよりも「メーカー公式のネットで買う方がお得」というメーカー優位な体制が最も大きな不満として挙がっている。



その中でも大きく比較されているのが〝ポイントプログラム〟である。中でも資生堂に対しては、「資生堂のポイントプログラムはメーカーの公式サイトの商品や体験と交換となっており、店頭の売上に供する体制になっていない」といった声が多く聞かれた。


具体的な例を挙げると「公式サイトで購入すると、次回使えるデジタルクーポンの発行や資生堂パーラーのお菓子、年末には卓上カレンダーといった〝おまけ〟がつくといった特典以外にも、お客様が自宅受け取りではなく店頭受け取りを指定された場合は、店側がショッピングバックを用意しなければならないなど、店頭のことを考えていないと思われても仕方がない」というように、店頭よりもメーカー公式オンラインへの誘導ともとれる施策が、どうしても〝店頭基点〟〝店頭重視〟に結びついていないことが、結局は納得感に繋がっていないと言える。



■店頭優位性がカギに - 関心高まる他メーカーの動き


今回のアルビオンのデジタル戦略は、こうした店頭の声を吸い上げた戦略を実現したことが、多くの賛同に繋がった訳であるが、今後注目されるのは、先行メーカーにおいても、店頭が優位と感じられるような政策を訴えられるかが大きなカギになると感じている。


何故ならば、それが出来なければ、特に多数のメーカーを取り扱う併売店においては、アルビオンに力を入れる店舗が増えることは間違いなく、ひいては店頭での存在感や売上にも影響を及ぼす可能性があるからだ。


ただ、ひとつ言いたいことがあるとするならば、専門店専用の公式オンラインストア「オミセプラス」の開発及び、そこで得られた売上に対するキックバックの還元においては、個々のお店が単独でオンラインストアを開設するのは難しいという背景から、資生堂が「専門店の力になりたい」という思いで開発されたものであり、デジタル戦略において「全くお店のことを考えていない」という発想は少し違うのではないかと感じている。


もちろん、先述の公式オンライン施策においては改善の余地はある。ここで重要なのは、メーカー側は本当にお店のことを考えているかという姿勢を示すこと。逆に、専門店側も「食わず嫌い」にならず、一旦受け入れて取り組んでみること。


その上で改善点があるならば、お互いがしっかりと協議し、より良いものへと成長させていくための妥協点を探っていくことが大切なのではないか。



兎にも角にも、現代において「デジタル戦略」への取り組みは必要不可欠であるだけに、化粧品専門店流通ならではのデジタルの強みを創り上げてほしいと願うばかりである。

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