top of page

【日本商業新聞 2025年11月17日号】資生堂が中期経営戦略策定

  • 日本商業新聞
  • 23 時間前
  • 読了時間: 12分

資生堂は、「2025年12月期第3四半期」(1~9月)の連結決算を発表(決算関連記事は6面に掲載)。


同社は11月10日、東京港区汐留の資生堂汐留オフィスで「決算説明会および中期経営戦略発表会」をリアルとライブ配信のハイブリッド形式で開催。第3四半期の状況が説明された後、中期経営戦略の狙いや実現に向けた取り組み等について説明を行った。


その中で藤原社長は、「一瞬も一生も 美しく」を再びスローガンとして掲げ、①ブランド力の向上を通じた成長加速、②グローバルオペレーションの進化、③サステナブルな価値創造の3つを戦略の柱に据え、ブランド力向上と企業価値の最大化に取り組んでいく姿勢を打ち出した。


発表会には、資生堂 代表執行役 社長 CEOの藤原憲太郎氏と同社 代表執行役 チーフファイナンシャルオフィサー (最高財務責任者)の廣藤綾子氏が出席。


最初にこれまで取り組んできた構造改革による成果をはじめ、「アクションプラン2025―2026」の進捗状況、第3四半期のサマリーや通期見通しの下方修正について説明。その後、藤原氏から中期経営戦略の狙いや方向性、そして廣藤氏からは同戦略における財務目標についてそれぞれ説明を行った。またその中で、希望退職プログラム「ネクストキャリア支援プラン」の実施や今後の取締役体制、そして執行役およびオフィサー体制、米州地域リーダーシップ体制にも言及(関連記事は次号掲載)。最後に質疑応答が行われた。



■ブランド価値最大化 「一瞬も 一生も 美しく」


2030中期経営戦略について

資生堂代表執行役社長CEO 藤原憲太郎氏


私たちは、長期にわたる業績および株価の低迷を真摯に受け止め、強い危機感のもと、経営改革に取り組んできた。アクションプランで進めてきた構造改革を経て、今後はブランド価値の最大化による新たな成長軌道へと舵を切っていく。


激しく変化する社会の中で、生活者は様々な課題を抱えている。こうした時代だからこそ、人々は安心と安定、繋がりと共感、本物志向と持続可能性など、本質的な価値を求めている。だからこそ、資生堂が果たすべき役割も大きい。今の時代にこそ本質的で新しい美の価値を創造し、生活者に寄り添う企業として社会に貢献できるチャンスだと捉えている。


2030年に実現するビジョンとして、「ひととの繋がりの中で新しい美を探求・創造・共有し、一人ひとりの人生を豊かにする」と設定。今こそ、ひとのために時代に流されることなく、新しい美を探求・発見し、心を動かす形にして届ける会社になりたい。それが私たちの独自の強みで、本質的な成長への道である。それが企業使命「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD」の実現に繋がっていく。


そして、このビジョンを体現するスローガンとして、「一瞬も 一生も 美しく」を再び掲げる。資生堂が向き合う人々が、そして私たち自身が一瞬も一生も美しくあるようにと願いを込めたもので今の社会でこの言葉がさらに深い意味を持って響く。一人ひとりのあらゆる瞬間、その一生に美があることを願い、そのために仕事をする。我々社員全員で目指すビジョンを実現するための合言葉として、このスローガンは今という時代にこそ打ち出す意味がある。


私は全社員にひとや社会と向き合い、美を問い続けることで、たとえ困難な時でも世界と本物の価値を分かち合おうとするひとであってほしい。「まだ見えてないが、でもきっとこうだ」という価値の兆しを形にし、寄り添う、これが1872年の創業から変わらない、我々の美との向き合い方で大きな強みである。


価値創造の面でも価値伝達の面でも、人を一生という時間軸で捉え、肌・身体・心の全体を対象に研究するR&Dや、感性に訴える新しい文化・価値を提言し、おもてなしの心とともにお客さまに届ける。こんなビューティーカンパニーは他にはない。この強みに再度立ち返り、ブランド力向上、そして企業価値最大化を図っていく。そして、財務の統合に向け、事業視点でもマテリアリティ(重要課題)の見直しを行った。①ブランド力の向上を通じた成長加速、②グローバルオペレーションの進化、③サステナブルな価値創造という3つの戦略の柱で、自社の強みに立脚した企業価値向上、社会価値創出を進める。結果として目指すのは、市場を上回る成長の実現、持続的な収益力の改善、そして市場環境が不透明な中でも自助努力で着実に収益性を担保すること。


2026年はアクションプランで掲げた7%の利益率目標を堅持。そして、コスト構造最適化で営業利益率を3%向上し、10%を確保。効率化で生まれた利益はブランドに再投資、質の高い成長実現に繋げる。年平均売上成長率は2~5%を想定。2030年の収益性目標として10%以上の営業利益率を目指す。


ここからは戦略の柱を一つずつ説明する。①ブランド力の向上を通じた成長加速について。従来、短期的な売上の追求によるポートフォリオの拡大や、それに伴う投資の分散により、十分なブランド価値育成ができてこなかったという振り返りに基づき、今後、私たちのR&Dの強み、競争優位性を最も発揮でき、かつ市場規模、成長性の観点から、魅力の高いカテゴリーに集中的に注力する。今後は中核となる「スキンケア」と「サンケア」を軸に、「メイクアップ」「フレグランス」「メディカル&ダーマ」「ライフスタイル」に注力する。


さらに新価値創造への挑戦領域として、「シニア」「美の健診事業」も展開する。その他のカテゴリーについては、市場特性に合わせた効率性重視の対応を基本とする。規模を追うためのM&Aや多角化は行わず、市場環境と競争優位性に基づくカテゴリー別戦略を明確化していく。


まず、最大規模である中核を担う「スキンケア」では、最新技術を戦略的に投入する。「サンケア」は、当社独自の技術の優位性を踏まえ、より高い成長を目指す。また、展開市場の拡大も積極的に進めていく。「メイクアップ」は、美容液ファンデに代表されるような新しいカテゴリー創造に挑戦。「フレグランス」は、ブランドポートフォリオの充実とともにグローバル展開を加速していく。「メディカル&ダーマ」は、既存ブランドの強化とともに、当社の技術先進性を活かせるメディカル領域に新たな成長機会を創出。「ライフスタイル」はコンセプトを精鋭化、商品群を充実させて育成を図る。


成長領域ごとにカテゴリーチャンピオンを目指すブランドを配置し、確実な成長を実現させていく。売上1000億円を超えた「コア」、次なる1000億ブランドを目指す「ネクスト」という考え方は継続しつつ、ブランドごとの状況を踏まえて再整備を行った。「SHISEIDO」は既に確立されたサイエンスの強みを活かし、「メディカル&ダーマ」領域への拡張に挑戦する。「アネッサ」は、アジアでの盤石な地位を活かし、グローバルに打って出る。従来欧州中心のモデルだった「フレグランス」も、グローバル全域で成長加速を狙う。また、高い成長性を期待する「メディカル&ダーマ」や「ライフスタイル」では、「dプログラム」「BAUM」を戦略的投資対象として育成していく。ブランドとしてユニークな価値を持つ「ドランク エレファント」「イプサ」は、成長と収益モデルを再度見直し今後の投資判断を進める。


市場環境の追い風に耐えるのではなく、自社の技術力や研究開発力を基盤に、自らの手で成長を作り出す、これが成長戦略の根幹である。2030年までの成長額の7割は、イノベーションによる新製品、ヒーロー商品の育成から実現。さらにエリアの拡大、新カテゴリーや新領域への挑戦で成長を上乗せする。また、ブランド・SKUの最適化を継続することで、成長による収益の最大化を目指していく。


今後の当社の成長を牽引するのは、圧倒的なイノベーションである。当社の強みである研究技術を、より大きくインパクトのある価値として迅速に生活者へ届ける。まずは特定のブランドの核としての活用で、「SHISEIDO」であれば免疫発想の新エイジングケア「エリクシール」であればコラーゲンサイエンスというように、注力ブランドに独自性を表現する技術を展開し、ブランド価値の精鋭化を図る。


もう一つはコーポレート横断での活用である。強い技術こそ、多くのブランド・商品に展開し、スケールを出し、技術そのものを競争優位にするアプローチである。既に2028年までに全社活用を進める技術は10以上特定済みで、具体的な新製品パイプラインが整っている。市場環境が不透明な中でも、この魅力的な技術、新製品群による市場創造を実現していけば勝ち抜けると確信。また、展開国の拡大も進める。「フレグランス」は、米州、アジアパシフィックでの成長機会を捉えてグローバルプレゼンスを強化。「サンケア」は欧米市場の開拓に挑戦。「クレ・ドポー ボーテ」は、ラグジュアリーブランドとして差別化されたブランド価値を武器に、世界の富裕層に比類なきブランド体験を提供する。


次は新カテゴリーへの拡張について。「メディカル&ダーマ」市場ではニーズが細分化・多様化している。当社は、より美容医療との共創を強化していく考えで、事業規模を将来的に1000億円超まで引き上げられると考えている。その中でも「ライフスタイル」は新しい化粧品文化の創造をリードしてきた資生堂にとって大変楽しみな領域。「BAUM」「イプサ」、肌だけではなく身体と心も満たすブランド体系の確立を目指す。


そして当社の持つ資産を活用し、新領域への拡張も進める。その一つとして、ライフステージにあった価値提供を当社の武器にする。2030年には、日本人口の3人に1人が65歳以上で、この世代は、可処分所得も消費力も高く、アクティブに人生を楽しむ世代で、よりビューティーを楽しむことを提案できれば、新たな大きな市場創造ができる。エイジングケアでトップを走るのが当社であり、圧倒的なプレゼンスを作り上げていく。


また、当社の長年の知見と検診を競争優位とし「美の検診」を進める。日本の健康診断受診者数は女性で3300万人で今後その1割が美とウェルネスを総合的に捉え、検診サービスに支出していくと仮定すると数百億円規模の市場創造が可能である。


次に、当社の資産を活用した新しいビジネス・価値創造モデルも強力に進める。まず、昨今のニーズの多様化、環境変化の速さを捉えるべく、新たにブランド発ではない価値創造の仕組みを投入する。技術発、SNS上のトレンド発、異業種との共創から早期に商品化を実現して市場に投入、生活者の反応を見ながら事業拡大に繋げるアプローチである。このアプローチはCEO直轄体制とし、既存事業とは異なる事業機会モデルの挑戦をスピード感を持って進めていく。生活者とブランドとの接点は、単なる販売目的から、より深く繋がるブランド体験へと進化。体験により強い愛用者基盤を拡大することが事業の持続的成長に不可欠である。当社の強みを活かした多面的なアプローチで、お客さま一人ひとりのブランドとの深い繋がりを実現し、質の高い成長とマーケティング効率の改善を実現する。


ポートフォリオは規律と戦略性をもって管理していく。非注力ブランドを整備し、全体の効率性を担保、併せて資生堂の持つ強いブランドをさらに強化する。適切な財務規律を持ったうえで、市場にいち早く呼応するための新たな挑戦にも果敢に取り組んでいく。


次に、②グローバルオペレーションの進化について。バリューチェーン全体を通して、グローバル最適化、リードタイムの圧縮化の2つの側面から全体最適化を図る。強化するカテゴリー、ブランドを明確化することで、会社全体の優先順位が明確となり全体最適を実現する。そのために、地域・機能を横断したクロスファンクショナルチーム体制で推進し、課題解決のスピードを上げ、その効果の最大化を図る。


その全体最適実現にデジタル/AIの活用は必須である。まずはFOCUSの安定稼働によるグローバル全体で統一されたIT体制の確立、経営管理の行動化を進め、計画制度、需要予測制度の向上を進めていく。また、AI投資を強化し、価値開発力の強化、バックオフィス業務の高度化・自動化の実現、また顧客体験・ロイヤリティ向上を図る。


次に、グローバル組織運営の在り方も、個々の機能強化と全体最適を目的に体制を変更させることで、アジリティの高いグローバル組織へ進化させていく。


これまでリージョン本社は独立性を持って事業運営してきたが、今後はよりリージョン本社とグローバル本社の機能部門の連携を強化。ファイナンス、サプライネットワーク、ITといった機能部門は、リージョンとグローバル本社間の新たなレポートラインを設け、グローバル全体最適を追求する体制へ進化させていく。


また、グローバルブランドホルダーとリージョンブランドチームの間でも、ドッテッドレポートラインを持つことで、ブランドオペレーションの徹底と市場変化への素早い対応を可能にする。この変更により、グローバル本社の体制は、よりコンパクトかつ全社戦略をリードする機能に特化する。今日発表した新たな執行体制のもと、グローバル全体での一体感をさらに深めていく。


そして③サステナブルな価値創造について。人財戦略は、社員の成長を最優先事項とする。新たな成長機会拡大によるグローバルリーダーの育成資生堂の価値観を再定義し浸透することで、組織の一体感と価値創造への情熱を醸成。そして組織面での進化という土台のうえに、こうした施策を展開することで、強力に人財育成を進める。


グローバルモビリティ促進など、リーダー人財育成のための投資は次の5年間、2025年実績の3倍水準を投入する。DE&Iによる社員の多様性を活かした価値創造は、当社の事業活動の改善に直結するものであり「ジェンダー平等」「美の力によるエンパワーメント」「人権尊重の推進」についての取り組みを進める。各活動に目標設定して、全社で推進。それぞれがブランドエクイティ向上や業務効率の強化、リスクマネジメントの高度化に貢献、企業価値向上に直結していく。


そして、環境面では人と地球の両面から持続可能性を高める「資生堂ビューティー・サーキュラーモデル」を確立、豊かな自然環境の実現に貢献する。「地球環境の負荷軽減」「サステナブルな製品の開発」「サステナブルで責任ある調達の推進」に取り組み、社名の由来でもある「万物資生」を体現していく。


今後、中期経営戦略を実行するために組織カルチャーの変革が大変重要だと実感している。厳しい構造改革が続いたことで、新しい価値創造と化粧文化創造への挑戦機会が失われ、資生堂らしい組織文化が薄まっていることは私にとって大きな課題である。


中期経営計画は、業績目標の達成は当然、資生堂ならではの企業価値を持続的に高めるため、新しい価値創造への挑戦を促し、成果にこだわり抜く文化を醸成することを掲げている。


今こそ人や社会と向き合い、美を問い続け、たとえ困難の時にあっても世界と本物の価値を分かち合おうとするひと、そんな資生堂人を増やし会社の風土を変えていく。それによって今後も本質的で持続的な成長をし、生活者の皆さんと新しい価値を分かち合える会社として、あり続けることを約束する。


「一瞬も 一生も 美しく」、私たちの歴史は常にひとと向き合い、新しい価値を発見し、革新的な創造を続けてきたことの証。それこそが私たちの強みであり、真似のできない存在であり続けるための力と信じ、社員全員で美と向き合い、人生を豊かにする美の文化を共有していきたい。

コメント


bottom of page