【日本商業新聞 コラム】-714- 父親リスト入り
- 日本商業新聞
- 5月20日
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日本でも育休をとる男性が多くなったが、アメリカはその上を行っている。
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大谷クンが奥様の出産に立ち会うために「父親リスト入り」して試合を休んだ。これはメジャーリーガーのみに与えられた特典で、アメリカ社会でもそれほど一般化しておらず、格差と感じる市民も居そうだが、その内容に異論を挟む人は居ない。高い航空費を払ってアメリカまで観戦に行って欠場を知った日本のファンも理解を示す。物わかりの良い人ばかりだ。
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日本では歌舞伎などの古典芸能の役者は肉親に慶弔があっても休演などしない。メジャーリーグが選手ファーストなら歌舞伎はファンファーストと言うことになる。「親の死に目にあえなくても芸の道を貫きたい」と言えば、ファンはその一途さに拍手を送る。歌舞伎の役者や大相撲の横綱が奥様の出産のために本番を休んだという話を聞いたことはない。しかし時代は少しずつアメリカナイズされていき、仕事と家庭を分けて考える日本人はそのうち世界の笑いものになるかもしれない。ただ団塊農耕派はいかに笑いものになろうが、この流れには乗れない。必死に汗をかき、仕事に苦しむ姿を身内に見せるのは抵抗があるし、逆に仕事上で名声を得たとしても身内は目立たないところでそっと喜んでほしい。かつて会社に子供を呼び、親の仕事ぶりを見せる企画もあったが、団塊農耕派はその案内すら家族にしていない。その目的は理解しているが、そんなお膳立てをしてもらわなくても親子のコミュニケーションをとるやり方などいくらでもある。
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一人で解決できそうなら過剰な家族の支援は不要。しかし圧政を続けるトランプの脇にはいつもおまけのように笑顔の奥様がいるし、日本人でも最近は学会などの出張に奥様が同伴するケースが珍しくない。ノーベル賞の授賞式にはきまって奥様が同行するが、なかには雄弁すぎる人も居て、賞とご主人の評価を下げている。何故連れていくのか、何か手伝う仕事でも有るのか、団塊農耕派にはその必然性がわからない。表に出ず、奥に引っ込んでいるから「奥様」と言うのだという暴論のほうが団塊農耕派にはしっくりする。
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ここまで書くと批判は免れないだろう。古臭い日本社会の縮図とか男尊女卑の権化とか家庭ないがしろの昭和人間とか罵声を浴びせられるだろう。しかし発想を変えればむしろ進んでいると思える昨今の傾向のほうが、人権を無視したやり方ではないかと思えてくる。たとえばトランプ夫人だが、関税もウクライナも関係なく、あたかもボクシングの試合に出てくるラウンドガールのように見えるし、学会に同行する奥様も内助の功に対するご褒美旅行のように見える。そうだとすれば女性の人権を無視した所業だと言わざるを得ない。
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男性の育休取得や女性の管理職登用は、企業が数値目標をあえて設定して、その後社員が目覚めていくという段取りを踏んでいる。過渡期にはそれでいい。でも急ぎすぎると性差の美徳すら葬られる危険がある。もう十分に学習してきた。家族が仕事以上に大切なことも、人権侵害や性差別が弱者を苦しめることも、何気ない一言がセクハラになることも。理想を追求するよりも、少しずつ努力していけばいいのではないかと思う。
(団塊農耕派)
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