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【日本商業新聞 2026年3月9日号】フレグランス市場成長加速

  • 日本商業新聞
  • 2 日前
  • 読了時間: 4分

日本のフレグランス市場が、いま急成長の局面を迎えている。

2000年代以降、長らく横ばいから微減が続いた香水需要は、SNSの浸透や若年層の自己表現ニーズ、コロナ禍を経た癒し志向、インバウンド回復など複数の追い風を受けて拡大基調へ転じた。市場規模は2020年代に入り過去最高を更新し続け、2030年代にかけても年率5~7%前後の成長が見込まれる。こうした潮流は、体験価値の高い提案が強みの化粧品専門店にとって、新たな成長エンジンとなりつつある。(丸毛敏行)



■世代中心に需要増 - 香りが拓く専門店の未来


長らく低迷していた日本のフレグランス市場が、近年急速に存在感を強めている。かつては「香り控えめ」な文化や職場での香りマナー意識の高さを背景に、欧米のような香水習慣は根付かなかった。しかし、SNSを発火点とした若年層の自己表現需要と、デジタル体験を重視する消費行動が市場の構造を塗り替えつつある。


2000年代から2010年代前半にかけての市場は成熟・停滞状態にあった。リーマンショック後の消費低迷期には、ボディミストや柔軟剤など軽い香りが中心で、香水は一部愛好家の領域にとどまっていたが、転機となったのは2010年代後半。InstagramなどSNSを通じ海外ブランドやニッチ香水の情報が拡散し、「他人と違う香り」に価値を見出すZ世代の台頭が市場を動かした。ユニセックス香水や10㎖前後の少量ボトル、サブスクリプション型サービスが浸透し、香りがファッションやメイクと並ぶ自己表現の一部として再定義された。


コロナ禍では一時的に外出需要が減退したものの、「癒し受容」への関心が高まり、ホームユース市場が拡大。これが香水再興の下地となった。23~24年は需要が急回復。24年の香水・オーデコロン販売額は前年比104.8%増、輸入香水は121.1%増と過去最高を更新。海外調査会社IMARC Groupの調べによると、日本の市場規模は推定3000億円を超え、33年には約6000億円規模に拡大する見通しだ。


成長のドライバーは4つの潮流に整理できる。


第一に、コロナ禍以降に定着した「香りによるウェルビーイング」。睡眠改善やリラックス効果など具体的な機能価値が注目され、ホームケアからパーソナルフレグランスへの移行を促した。


第二に、SNS上の「推し香水」文化。インフルエンサーやK‐POPアーティストの愛用

品紹介が瞬時に拡散され、ブランド垣根を越えた購買行動を生み出している。


第三に、ジェンダーレス化の進展。性別分類よりもその日の気分で香りを選ぶ流れが若年層に広がり、フレグランス市場の裾野を拡げた。


第四に、円安を背景としたインバウンド消費の回復。日本限定や和素材を打ち出す高価格帯香水の好調が続く。 


さらに、ルラボ、バイレードなど、海外ブランドの支持拡大が顕著だ。1万円超の高価格香水にも関わらず「自分だけの香りを求める層」が厚みを増している。店舗ではAIによる香り診断やVR・ARを活用した没入型体験などデジタル技術が導入され、購買前体験そのものがコンテンツ化するなど、販売プロセスの高度化が進行中だ。並行して、詰め替え容器や再生素材パッケージ、成分開示をNFCタグで行うなど、サステナビリティもブランド競争の新たな指標となっている。


今後10年を見据えた市場の成長軸は「パーソナライズ」「デジタル体験」「サステナブル」の3本柱といえる。AI診断やオンラインカウンセリングによる個別提案が広がる一方、店舗はブランドの世界観を体感できる「香りのショールーム」へと進化する見通しだ。サステナブル香水は若年層を中心に必須条件化し、ブランド評価の新基準となる可能性が高い。 


こうした動きは化粧品専門店にとっても商機となる。実際に、資生堂ザ・ギンザが展開するナルシソ ロドリゲスやイッセイ ミヤケを新たに導入した専門店からは「香水を導入したことで、今まで接点がなかったお客様との出会いに繋がっている以外にも、専門店が課題とする『店内に入りにくい』という点に至っても、香水があることで気軽に立ち止まっていただけているなど、高級感溢れる店舗でありながら、良い意味で敷居が低くなっている」と話す。


このように、香りはオンラインでは再現困難で、試香・接客を通じてこそ魅力が伝わるカテゴリーだ。リアル店舗でのパーソナル診断やホームフレグランス提案を強化することで、スキンケアやメイクアップへのクロスセルを促進できる。フレグランスは単なる新カテゴリーではなく、店舗価値を再定義する「接客発想の起点」になりつつある。 


香りを通じて「自分らしさ」と「心地よさ」を追求する時代。日本のフレグランス市場は、停滞から成長へと確実に舵を切り、化粧品業界に新たな潮流を生み出している。

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