コーセーは、今後コーセーグループの目指す姿と成長戦略を掲げた新たな中長期ビジョンとして「Vision for Lifelong Beauty Partner ―Milestone2030」を策定。11月11日に東京日本橋にある同本社会議室で報道関係者を対象に「中長期ビジョン説明会」を開催した。説明会には、代表取締役社長の小林一俊氏の他、取締役経営企画部長の原谷美典氏と執行役員経理部長の松浪慶太氏の3名が出席。中長期ビジョンの概要と今後コーセーが目指す姿について小林社長が説明した後、質疑応答が行われた。(半沢健一)
■コーセー 新中長期ビジョン
新中長期ビジョン「Vision for Lifelong Beauty Partner ―Milestone2030」の内容と骨子について説明する。
始めに伝えたいのは、当社が創業80周年(2026年)を節目に、大きな構想として純粋持株会社体制への移行に向けた検討を開始する。来年3月の株主総会で決議されれば、2026年からそうした体制にしていきたい。その目的は、グローバルでの多様なビジネスモデルの展開と提供価値の拡大による持続的な成長を目指すビューティーコンソーシアム構想の実現である。日本での盤石な事業基盤の構築と圧倒的な存在感を確立して成長リソースを生み出し持続的な成長への投資につなげていきたい。
もう一つ強調したいのは、「脱・自前」による地域への最適化をコアな考えとして、現地起点のマーケティング、モノづくりへの転換やM&A/提携を積極的に進める等して、グローバルでの事業成長を目指していく。
純粋持株会社体制へ移行することで、グループのシナジーを極大化していく他、意思決定も迅速化させていく。さらに、経営資源の戦略的、効率的な配分を可能とする経営体制の確立を目指す。グループ内での相互的な連携を高めて、グローバルでの多様なビジネスモデルの展開とウェルビーイング領域への提供価値の拡大を加速。各事業それぞれの競争力を磨き、グループ全体としての総合力を高めていく。このビューティコンソーシアム構想には我々と同じ思いの企業やブランドがグループに入りやすい体制を構築して、お互いの強みを活かし、相互的な連携で持続的な成長と企業の価値向上を目指す。
新ビジョンの位置付けだが、当社は2011年以降、大きな成長を遂げたが、コロナ禍でその成長は一時的に鈍化し、「VISION2026」の進捗は想定通りに進まなかった。顕在化した様々な課題を踏まえ、新ビジョンでは、足元の業績を確実なものにして持続的な成長スパイラルへ転換していくことを目指す。
新ビジョンでは10年後を見据えた、コーセーグループのありたい姿とそのロードマップとして2030年をマイルストーンとした定量目標、そこに向けた中期戦略を策定した。この2030年のマイルストーンに向けた中期戦略も、その進捗や外部環境の変化に応じて柔軟にアップデートしていく。
その新ビジョンが目指すありたい姿について説明する。ビューティを軸としたトレンドも大きく変化し、当社が果たせる役割は大きく広がりを見せている。そうした中で、これまで「VISION2026」で残された課題に加えて、目指す企業像と現状のギャップから課題を抽出。今後、取り組むべき課題を「事業課題」(グロバール展開の加速/変化に強い企業体質への転換/人的資本の最大化/安心安全を基本とした高付加価値提供)、「社会課題」(多彩な美しさの尊重/心まで健やかな毎日を支える/社会的機会のあと押し)、「環境課題」(環境意識の向上/環境問題解決への貢献/環境負荷低減の推進)の3つの軸で整理した。
■持続的な売上成長へ CAGRを5%強目指す
当社が目指すありたい姿とは、「Your Lifelong Beauty Partner」。そして信念とは、美を通じて世界に寄り添い、一人ひとりの生涯を彩る活動を行うことを約束する。
先ほど説明した2030年をマイルストーンとする定量目標と財務目標において、稼ぐ力の再構築の達成判断となる指標として、5つの目標(売上高成長率/海外売上高比率/営業利益率/EBITDAマージン/ROIC)を設定。また、財務目標に加えて非財務目標も5項目(グローバルキーポスト人材充足率/アダプタビリティ∞に基づく商品・サービス提供率/ウェルビーイングを叶える取り組み件数/環境意識の啓発人数/CO2排出量削減率)を設定した。
そして中期戦略の骨子を説明する前に、これまで取り組んできた「VISION2026」の振り返ると、コロナの影響等があったが、既に日本と北米は上昇トレンドに転換。一方、アジア事業は大きな課題を抱えている状況で、これらの状況を分析した結果「VISION2026」で残された課題を大きく3つ(グロバール展開の加速/稼ぐ力の再構築/強い事業基盤づくり)に整理し、これらの課題に取り組む。
中期戦略のコアとなる考え方は、日本での盤石な事業基盤の構築と、圧倒的な存在感の確立により、確実な成長リソースを生み出すことで、日本で今まで以上に稼ぎ、その原資をグローバルでの事業成長のために投資を行っていくことにある。
一つめの「グローバルでの事業成長」では、先述の「脱・自前」による地域への最適化を
進める必要がある。今まで自社のリソースを活用することを前提に、日本で作った商品を海外に輸出して販売する方法をグローバル化として進めてきたがそれでは成長のスピードに限界がある。今後は積極的に外部との連携や外部のアセット、ODMメーカーの活用等も含め、それぞれ地域への最適化を進めていく。
その地域への最適化には2つのアプローチがあると考えている。一つは現地起点のマーケティング・モノづくりに転換、現地リソースによる日本発のブランド価値の最適化を図ること。もう一つは、地域に根付いたブランドを新たに獲得、M&A/提携によるブランドの最適化である。この2つを組合わせて、グローバルでの事業成長を実現させていく。
次に、中期戦略の全体像と重点ポイントについて。2030年のマイルストーンに向けた戦略目標のゴールは、持続的な成長にむけた構造改革と基盤再構築により、確実な成長スパイラルに転換すること。中期戦略では、先述の「グループ戦略」に加えて、「事業戦略」「地域戦略」「顧客戦略」「機能戦略」の5つの戦略で構成している。
「事業戦略」の考え方は、2030年にむけて、売上高はCAGR(年平均成長率)でプラス5%以上を目指す。これまでは売上高という絶対額を目標にしてきたが、新ビジョンでは、絶対額の水準以上に持続的な売上成長とシェア拡大が重要だと捉えて、成長率を目標指標に掲げた。
その目標に向けて各セグメント別の事業戦略を策定した。「コスメデコルテ」「アルビオン」「タルト」を中心としたハイプレステージ事業においては利益を生み出す事業構造は当社の強みであり維持する。加えて、今後の成長領域であるグローバルサウス市場(ASEAN/インド)攻略のためにコスメタリー事業、特に低価格でありながら付加価値を持つプレミアムマスの領域に注力する。中価格帯のプレステージ領域では、日本市場を中心にブランドの独自性価値を高めることでシェア拡大につなげていく。
事業戦略における重点テーマを各セグメント別で説明。ポイントは、ブランド価値の深掘りと再構築と、新たな顧客接点の創出の2つとなる。
ハイプレッセージ事業では「コスメデコルテ」が引き続きラグジュアリー価値と最先端サイエンステクノロジーの価値を追求することでブランド価値を深掘り。「アルビオン」も、日本市場での新たな顧客接点の拡大として、ECのローンチにむけた検討を開始。「タルト」も、北米での新たな顧客接点を目的とした新規流通展開について検討を行っている。
2014年「タルト」を買収して以降、コロナ禍や円安の影響で対応が遅れていたインオーガニックの成長を強化する。具体的には、2030年までに営業キャッシュフローの約2割の投資枠を設定し、初年度から新たな専任組織を作って取り組みを加速化。M&Aや提携では、事業ポートフォリオの拡充に加えて、グローバルでの事業基盤構築にむけたアセット獲得につなげる。現在、複数の案件を進めており、発表できるタイミングで改めてお伝えする。
次に「地域戦略」について。4つの事業体(コーセー/コスメポート/アルビオン/タルト)が有機的に連携し、グローバルな市場攻略を推進。コーセー、コスメポートの2事業のグローバル戦略では、グローバルサウスでの市場攻略を最優先に位置付けている。免税を含む中華圏地域やグローバルサウス地域は、今後2カ年程度を構造改革フェーズと位置付けて、ビジネスモデルの再構築や事業基盤の強化に取り組んでいく。
地域軸での成長イメージで一番のポイントは、中華圏市場への高い依存から、次なる成長領域と捉えるグローバルサウス市場へのシフト。一時的に中華圏と海外面税で全体売上の構成比で25%程度を占めていたが、この1~2年で構成比は大きく低下、直近では15%程度となっている。今後、この中華圏や免税の構成比を高めるのではなく、M&Aや事業提携を含めてグローバルサウスでの成長を実現。将来的には海外売上比率50%以上を目指していく。
「地域戦略」では、特に重要な3市場(免税含む中華圏市場/グローバルサウス市場/日本市場)について説明する。日本以外の「地域戦略」で共通する考え方は、地域最適化の実現にむけてビジネスモデルを再構築して事業基盤を強化すると同時に、現地への権限移譲も進める。特にグローバルサウス市場では、地域統括機能を設置し、モノづくり機能の強化やコーセー、コスメポートの2事業横断のコスメタリー事業体制を構築する。加えて、国や地域で自社の機能にこだわらず、現地企業のバリューチェーンを活用することで、現状の延長線上にないインオーガニックな現地への最適化を図る。
また、日本市場は当社の強みが最も発揮できる市場であり、デジタル戦略を強化し、顧客体験の変革や関係性強化につなげ、圧倒的な存在感の確立を目指す。そして、北米や欧州も、「タルト」による成長とインオーガニックでの成長を中心に取り組む。勿論、今まで進めてきた北米中心に進めてきた「雪肌精」「コスメデコルテ」「アディクション」の展開も引き続き推進していく。
■海外売上比率50%以上 グローバルサウス市場に注力
そして、お客さまに対する提供価値も今後、領域を拡大する。化粧品やビューティを軸足に、ヘルスケアやキュアというウェルビーイング領域に事業を拡大していくことに変わりはない。今後はプロダクトだけでなく、体験そのものを提供価値として事業拡大を図る。
顧客体験としては新たなお客さまの開発も進めている。具体的には、これからの成長領域の一つとして、ジェンダー・ジェネレーションの拡大を推進。この領域は業界内でも特に当社が先駆けて取り組んでおり、昨年からの大谷翔平選手の広告起用をきっかけに、「コスメデコルテ」や「雪肌精」の男性需要を大きく喚起した。それだけではなく日焼け止めでも、子供の使用やスポーツをする際の使用習慣の啓発にもつなげてきた。
その「アダプタビリティ∞」を引き続き掲げてお客さま発想をより広げるための取り組みテーマを、ブランドごとに定め、多様なお客さまに寄り添う商品やサービスを展開する。
最後に「機能戦略」について説明する。これからは、グローバルでの地域最適化を実現するために機能強化に注力する。これまで日本中心の商品開発やサプライチェーンの考え方に捉われていたが、今後、組織や機能のグローバル視点への転換を行い、事業基盤を構築する。その実現に必要不可欠なのが人材で、その人的資本の強化に向けた非財務目標として、グローバルキーポスト人材充足率を掲げた。海外での機能拡充に伴い、拡大するポスト数を上回る人材拡充を進めるための指標となる。今まで取り組んできた日本人人材の育成だけでなく、外国人人材の活躍の促進、海外現法経営人材の採用・育成に取り組んでいく。
そして「稼ぐ力の再構築」にも注力する。これまでの仕事のやり方を見直して、業務改革を進めていく。事業規模の拡大と筋肉質な事業構造への転換を進め、収益性と効率性を改善。具体的には、SKUあたりの利益を可視化し、SKU効率の向上やモノづくりのプロセスを見直す。在庫、原価、廃棄の低減活動の推進、そして投資対効率を明確にして投資効率を高めていく。これらの効率化を進めるためには、事業基盤の整備のためにIT投資やデジタル投資が必要だと考えている。
今回、新ビジョンの策定に伴い、2020年に策定した「コーセーサステナビリティプラン」の中で推進していた活動を新ビジョンへ集約した。そこで掲げていた活動目標の一部は、非財務目標として重要指標として盛り込んでいる。その他の目標も、今後はサステナビリティ戦略の位置付けで全ての目標に対する進捗を確認し、取り組みを継続していく。
続いて「財務戦略」。これまで中華圏市場の需要による高い収益性をベースとした成長を目指してきたが、先述の通り、新ビジョンでは中華圏市場偏重から転換し、グローバルサウスでの既存事業成長とインオーガニックな成長を目指す。そのため今後、成長投資を強化。成長投資と収益性改善の両立を図るべく、収益性指標として営業利益率に加えて償却コストを除いたEBITDAマージンも併用。SKU効率の向上や付加価値の高い商品づくりによる減価率低減、デジタルマーケティングの強化による販売費の効率化、業務改善、業務改革による生産性向上を通じて収益性を改善。営業利益率を12%以上、EBITDAマージン18%以上を目指す。
また、資本効率性指標としてROICを導入する。直近の財務面での課題は、グループで増加した在庫の圧縮と、コロナ禍で積み上げたキャッシュの成長戦略、成長投資への活用にある。これらの取り組みと先ほど説明した収益性の改善によりROIC10%以上を目標に掲げた。これまではROE、ROAを効率性指標として取り組んできたが、ROICツリーを活用して、事業ごとの経営課題を可視化することで効率性改善につながると考えている。資本効率性を高めると共に、投資家との対話を推進していくことで、企業価値の向上につなげていく。
最後になるが、新ビジョンでは、日本で稼いだ利益を成長投資に回すということが大きなポイントとなる。それを今まで以上に進める他、既存事業の収益性の改善によるキャッシュの創出と手元資金を有効に活用し、M&Aや事業提携等のインオーガニックな成長のための投資に回して新たな事業領域拡大につなげていく。それだけでなく研究開発や業務改革、IT投資、デジタルを活用した稼ぐ力の再構築につながる投資も行っていく。
また、南アルプス工場を含めた生産設備への投資も引き続き、効率的かつ付加価値の高いモノづくりができるよう、環境負荷を低減するための生産体制の構築も必要不可欠だと考えている。これらの投資は2030年までに最大で2000億を超える規模の投資を行うべきだと考えている。
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