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  • 日本商業新聞

【2023/7/24 日本商業新聞】今そこでしか体験できないこと/コト消費からトキ消費/専門店にとって「当たり前」

 先日、ある化粧品メーカーのマーケティング担当と話をする中、「トキ消費」という言葉を初めて耳にした。「トキ消費」とは、「今そこでしか体験出来ないこと」を表す。つまり、日々忙しい毎日を過ごす現代人にとって大切な時間を費やして得られる「高揚感」や「満足感」に価値を感じるという考え方だ。まだまだ一般的ではないが徐々に拡がりをみせつつある。

 

 ただ、専門店にとって「今そこでしか体験できないこと」への取り組みは長年続けてきたことであり、「当たり前のこと」と言える。コロナ後、リアル回帰で専門店の大切さが見直されているが、この「トキ消費」で一層その動きに拍車がかかるのかもしれない。(半沢)



■今そこでしか体験できないこと、コト消費からトキ消費へ


 生活者の「消費の形」が変化しつつある。先日、ふるさと納税において体験型や旅行に関する返礼品が増えていると新聞やニュースで報じられていた。また、今年秋にはルール改正が行われる予定で、この傾向はより強まっていくとの見方であることも報じていた。


 これまで生活者の消費意識は「欲しい・使ってみたい」と感じるモノ(商品)を購入する、つまり「モノ消費」で満足感を得ていたが、今はモノを通して得られる体験で満足感を得たいという「コト消費」の意識を持つ生活者が大半を占める。


 ちなみに「モノ消費からコト消費」という言葉は、2000年前半から様々なシーンで聞かれ始めた。消費意識の多様化やネットなどで簡単に商品情報を取得できるようになったことで消費意識が成熟化したことを背景に、生活者が支払う対価として、モノに対してだけでなく、コトによる満足感を求める生活者が増えたためである。


 専門店流通にとっての「コト消費」とは、店頭活動そのものだ。もっと言えば、肌に触れる活動は当然のこと、カウンセリングによる最適提案や丁寧な接客応対、そしてお店独自の取り組みもそうである。


 同じブランドや化粧品を展開している小売業が数多くある中、存在感を発揮するためにはお店ならではの活動やこだわりで差別化を打ち出し、生活者に満足感を提供していくことが大切だからである。


 しかし、その「モノ消費からコト消費」という生活者の意識もここにきてさらに変化しているという。先日、ある化粧品メーカーのマーケティング担当と話をしている中で「トキ消費」という言葉を初めて耳にした。この「トキ消費」とは、単なる時間のことではなく「今そこでしか体験できないこと」を表す言葉で、代表的なものではイベントやスポーツ観戦がそれにあたる。つまり、日々忙しい毎日を過ごす現代人にとって大切な時間を費やして得られる「高揚感」や「満足感」に価値を感じるという考え方だ。



■専門店にとって「当たり前」


 「トキ消費」は、この数年マーケティングの世界で拡がり始めたばかりの言葉で、まだまだ一般的ではない。だが、よくよく考えれば、専門店にとって「今そこでしか体験できないこと」はこれまでずっと取り組み続けてきた「当たり前のこと」であり、決して新しい考え方ではない。


 先ほど専門店での「コト消費」について述べたが、厳しい競争環境の中で差別化のために取り組んできた、お店独自の活動が「今そこでしか体験できないこと」そのものである。来店してから帰られるまでに行われる、肌に触れる活動やカウンセリングによる最適提案丁寧な接客応対、そしてお店独自の活動が「コト消費」であり、「トキ消費」でもある。


 間違いなく言えるのはこれまで取り組んできた「コト消費」を突き詰めっていったのが「トキ消費」であり、お店を差別化していくうえで、今後益々重要になっていくのは言うまでもない。そして、今後さらに生活者の意識の中に「トキ消費」へのニーズが浸透していけば、専門店流通の価値が再認識されることにもつながっていくはずである。


 生活者にとっての価値とは「利便性」や「効率性」も重要ではあるが、一方で「今そこでしか体験できないこと」で生活者に「満足感」を提供することもこれまで以上に大きな意味を持つのは間違いない。

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