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【日本商業新聞 コラム】心意気と美学 -649- ヒステリックな社会

 統一教会やビッグモーターがマスコミに糾弾されているのを見るのは快く、悪を成敗したような気にもなるが、ジャニーズのオーナーの性加害を巡るニュースは目にしたくない。


 内容がおぞましいからではなく、マスコミの常軌を逸した追及の姿勢が見苦しくてイヤなのだ。オーナーは既に物故者で、追及を受けるのは元アイドルの後任社長たちなのに、記者たちは「知る権利」があるとばかり攻撃的な質問を繰り返す。偏った使命感に酔って言葉の揚げ足を取り、居丈高に存在感を示し、良い仕事をしたかのような顔をする。


 一方立場の弱い被告人席の人たちは、反論することが悪と思われる雰囲気にたじろぎ、ひたすら頭を下げ、ゲスの勘ぐりに勢いを与えてしまう。いつから記者たちはこんなに無礼で生意気になったのか、そんなことを思いながら団塊農耕派はこのおぞましい会見風景を観ていた。



 どうやら日本人の美徳でもある「武士の情け」という言葉はもはや死語で、一度不祥事を起こした人間は容赦なくバッシングされる運命にあるようだ。流行りの言葉「炎上」を辞書で引くと「燃え盛る火事」と書かれているが、そのうち「批判され身動きができなくなる状態」に変わってしまうかもしれない。SNSの暴走に心を病む人も少なくないが、無秩序に飛び交う非人道的な情報がいかに危険かは、昨今は誰でもが感じている。


 「あおり運転」が問題になり、多くの人がそれに備えてドライブレコーダーを付けるようになったが、一部にそうではない人もいる。あおり運転を誘い、その映像を撮り、投稿したい人たちだ。ユーチューバーなどが市民権を得ている野次馬社会に大量発生する好ましからざる人種で、上述のゲスな記者たちと同類項だと言っていい。


 中国ではあらゆるところにカメラが付けられており、国民の一挙手一投足が監視されているが、そんな中国を笑えない。突出した言動や執筆は、日本でも昨今は批判の対象になり、運が悪ければバズり好きの連中の格好のエサになってしまう。投稿は大抵が匿名なので、そこに人権意識や倫理観のカケラもなく、無慈悲な世界に追い込まれてしまう。これは形を変えた民営の監視システムに他ならず、言動や執筆にいっときの油断も許されない。



 そう思うと団塊農耕派のコラムには危険がいっぱいだが、案の定不愉快な批判を受けたことがある。チームメートのエラーが原因で負けた野球の試合のことを書いたことがあるが、「調べればエラーした人を同定できる。人権侵害だ」と言う人が現れたのである。30年も前のことで、今は懐かしい思い出になっているのに、そこに悪意の火種を吹き込みたいらしい…、半分怒り、半分あきれたものだが、その意見には反論も否定もしなかった。その人の持つ感性を否定すれば団塊農耕派も同じ穴のムジナになってしまうと思ったからだ。


 HSC(Highly Sensitive Child:超敏感な子供)と呼ばれ、周囲に気を使いすぎる子どもが激増しているという。些細な事で叱られたり、後ろ指を刺されることにストレスを感じ、大人顔負けの忖度をする…、この子らの知的水準は高いというが、可哀そうでならない。そんなこじんまりした子どもを作ってしまう監視社会が健全であるはずがない。小悪を見逃し、小善を誉めちぎるおおらかな大人になろうではないか。

(団塊農耕派)

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