【2025/6/9 日本商業新聞】エルメス1人勝ちの要因とは
- 日本商業新聞
- 5 日前
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不安定な動きが続く世界情勢の影響により、業績を落とすラグジュアリーブランドが多い中、世界的ブランド「エルメス」は売上高2ケタ増と、競合他社の苦戦をしり目に〝一人勝ち〟に躍り出た。その背景には「長期的価値の構築」という、一時的な流行やトレンドに左右されない戦略的思想が要因にあると考えられる。そしてこの戦略は、日本国内における高級化粧品販売の在り方にも通ずるものになると確信している。(中濱真弥)
■現地の顧客を大切に
高級ファッションブランド業界が非常に興味深い動きを見せている。ルイヴィトンやディオールを展開する「LVMHモエヘネシールイヴィトン」、グッチやサンローラン、バレンシアガを擁する「ケリング」、そして「エルメス」と、フランスを代表する高級品3社が2024年12月期決算を発表、業績面で大きく明暗を分けた。
まず業界最大手のLVMHは、売上高847億ユーロと前期比2%減、純利益は同17%減の125億5000万ユーロと落ち込んだ。次にケリングは、売上高172億ユーロと同12%減、純利益は同62%減の11億3300万ユーロと大きく後退。世界的に不安定な情勢や中国市場の減速などが主な理由として挙げられる中、競合の苦戦をしり目に〝一人勝ち〟の様相を見せたのが「エルメス」だ。
エルメスの売上高は同13%増の151億7000万ユーロ(約2兆4120億円)、営業利益は同8.8%増の61億5000万ユーロ(約9778億円)、純利益は同6.8%増の46億300万ユーロ(約7318億円)と大きな成長を見せた。
一体何が優勝劣敗を分けたのか―。エルメスの強さの秘訣として、エルメスCEOアクセル・デュマ氏は「インバウンド観光客よりも現地の顧客を大切にした小売り戦略、そして(品質に対する)高い信頼性が成功の要因」と述べ、「職人技、品質は先行き不透明な現状において唯一無二の価値になる」と示した。
また今後も戦略は変わることなく、「創造性と職人技術、独自のコミュニケーションを基盤にした長期視野の成長を目指す」と力説。
要するに、短期的な需要を迎合せず、どのような状況下にあっても、ブランドとしての生き方や理念を貫く「長期的価値の構築」という戦略的思想の違いが今回の業績から証明されたのではないかと感じている。売上や量を求めた販売戦略ではなく、足元の顧客満足や質の徹底を図ってきたことが、結果として「希少性=ブランド価値向上」に繋がったのである。まさに〝ラグジュアリーブランド〟としての姿を体現したと言えよう。
■「長期的価値の構築」で差別化
そしてこれは高級化粧品を展開する国内の化粧品メーカーにおいても相通ずるものがあると感じている。昨今の化粧品業界では、破竹の勢いをみせた中国市場のバブルが崩壊し、オルビスでは中国事業からの撤退を発表。インバウンド需要も戻ってきてはいるが以前のような勢いはない。
一方、ECに詳しい方によると「ECの国内市場は飽和状態にある。新規顧客の獲得が難しくなり、顧客争奪戦が激化していることに伴いコストも増加、多くの企業で売上が停滞している」というように、ECも明るい市場とは言い難い。
このように、高級化粧品においてもファッション業界と同じ流れで進んでいる中で、エルメス同様、一過性の流行やトレンドではなく、高い品質と独創性溢れたモノづくりと共に、一流のサービスとコミュニケーションによる価値創出が大きな差別化に繋がるのではと感じる。そしてまた、エルメスが掲げる「創造性と高い技術、独自のコミュニケーション戦略」とは、まさしく専門店における販売戦略そのものと言っても過言ではない。
『短期的な成果よりも熟成という時間を信じる。流行を追わず、ブランド本来の価値を静かに育てる』。これは静かなるラグジュアリーの旗手、リシュモン創業者のヨハン・ルパートの哲学であり、リシュモンもまた、存在価値を上げている一社だ。今こそ、日本の化粧品業界において、エルメスやリシュモンに続くメーカーが表れてくることを期待するばかりである。
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