資生堂ジャパンでは、6月6日以降、専門店に向けた「ミライシフトNIPPON2025」について説明が行われるのに際し、去る5月16日、資生堂汐留オフィスにて、資生堂ジャパン代表取締役社長CEO・藤原憲太郎氏が登壇し、業界専門紙を対象にした「新戦略方針説明会」を開催。「新経営改革プランを正しく理解いただくことで、化粧品市場の将来の発展に向けたコミュニケーションにおいて歩みを共にさせていただきたい」とし、約1時間に亘り説明及び質疑応答が行われた。
■「本気」の価値提供と〝ビジネスモデル〟の転換へ
まず資生堂ジャパンの役割ということで、本音で申し上げてやはりジャパンが輝かないと資生堂グループ全体も輝かないと強く思っている。その為には、日本発の価値を生み出し世界に発信することが重要であり、その為にはジャパンの社員が生き生きと活動できる組織を作る必要がある。
しかし、現状ジャパンには課題がある。それは成長が収益に繋がっていないということ。
具体的には、固定費が重く、ブランドや一番大事な店頭への投資が生み出せていないことが挙げられる。なぜかというと、ブランドが多く投資が分散しており、店頭をカバーする上で全ての接点にて、一律の価値提供がマネジメントするチャンネルやブランドに分解されており、かなり複雑な組織になっていることが生産性の低下へと繋がっている。
そして大きな問題が、成長するための方法論が新製品を全国一律で網羅できる店頭に大量配下するといった話題づくり中心で、この方法が良かった時もあったが、今のお客様にはこうした過去からのモデルが通用しなくなっており、その変化に脱却できていない組織になっていると感じている。
一方、生活者は人生100年時代になっていく中で、経済の低成長も含め将来への不安やセルフケア意識が高まっているということに加え、大きなトレンドとして、テクノロジーの進化は人々の健康寿命を延ばし、更にはひとりひとりの健康状態が見えるようになってきているなど、こうした社会の大きなトレンドを捉えた新たな価値提案や熱狂的なファンづくりが求められている。
これも何度も申し上げているが、我々はビューティーカンパニーとして〝美の力〟を信じており、美の力がこうした社会課題を解決し、生活者を幸せにしていけると考えている。
その中で資生堂ジャパンは、日本においてパーソナルスキンビューティー&ウェルネスカンパニーの先駆者になっていく。
今までのスキンケアやサンケアといった既存領域から、今の生活者の社会課題を捉えた新しい市場の創造といった新領域に打って出ていく。
これを実現していく為には、先ほどの課題、あるいは生活者の状況を組み合わせた時にビジネストランスフォーメーションが必要不可欠であり、今社員一同頑張っているという状況である。
ビジネストランスフォーメーションが目指すことは、〝「本気」の生活者・お客さま起点の価値提供とビジネスモデルの転換〟であり、これは単なるコスト削減ではなく、変革で目指すのは「持続的な成長」「稼げる基盤構築」であり、その為に全てを「生活者・お客さま起点」の3点を軸に進めていく。
まず「持続的な成長」を実現するべくブランド戦略を行っていく。
1つめが「ブランドイノベーション」。グローバルコアブランドと日本のローカルブランドヒーローSKUへ積極的再投資を行っていく。
2つめが「コミュニケーションイノベーション」で、伝える力をイノベーションしていこうということで、ユニークで共感性の高いクリエイティブなコミュニケーションによって新たな価値としてお客さまの支持を獲得していきたい。
3つめは「市場創造マーケティング」。これは、お客様のニーズから来るイノベーションではなく、自分たちが新たな市場を創造し、お客様の感動を起こすということ。例えば「ファンデ美容液」では、あえて美容液の中にファンデーションの成分をいれるという全く新しい発想で支持を獲得しており、お客さまが欲する商品を生み出していく市場を作っていきたいと思っている。
次に「持続的な成長を実現するタッチポイント戦略」として、今70%以上の化粧品ユーザーはマルチチャネルで、中には4チャネル以上使っている人が3割程度いる。要するに、もうチャネルという言葉はなくなってくると思っている。
これからは、専門店、デパートという枠ではなく、お客様はコンシューマージャーニーの中で動いていて、どこで出会い、その出会った場所の価値と感動を届けるということをこれからはデザインしていかなければならない。
そして「人が集まるところで勝つ」。当たり前のことであるが、日本のトラフィックは特に駅を中心に相当変わってきており、お客さまの集まるところを真剣に生活者の視点で見て、そこに仮に化粧品店がないのであれば、どんなビューティー体験を提供できるのかということを真剣に考えていく。
その中でオンラインでの行動は当たり前の日常となっていることから、オフラインとオンラインの二極ではなくなっている。要は、まさにデジタルの世界の中にどう我々がオフラインを位置付けるのかということをしっかりと取り組んでいかなければならない。
オフラインのポイントとしては、特別な体験をお客さまは求めている。その実現の為には、やはり生活者起点とした取り組み、コミュニケーション変革が必要である。もっと言うと、海外では売り場のことをポイントオブセールスと言うが、ポイントオブセールスから、まさにポイントオブエクスペリエンスへと、体験の場に変えていきたいと考えている。これが持続的な成長を実現するためのブランド戦略とタッチポイント戦略である。
2点目の「稼げる基盤構築」については今コスト削減を進めており、原価についてはコアブランドへの注力に伴うミックス改善により10億円程度の改善が実現。これらミックス改善とSKU最適化などを進めることで、成長による更なる収益の拡大を図っている。
これらの成長とコスト削減を進めていくために一番大事なのが〝人財変革〟であると思っている。
当社はピープルファーストという経営理念のもとに、社員が一番大切な資産であり、全ての変革と成長が社員から始まっている。
この社員1人ひとりの役割や貢献度に応じてフェアなチャンスが与えられており、そこに対してチャレンジする社員には投資をしていく。こうした大きな経営理念のもと、今回のビジネストランスフォーメーション「ミライシフトNIPPON2025」を掲げさせていただいた。
その中で「専門店さまと協働で実現したいこと」について話をさせていただく。
先程「チャネルという言葉はなくしたい」とは申し上げたものの、専門店さまの強みは地域における愛用者基盤だと私は思っている。そこを一番強く実現するのが人との繋がりであり、専門店さまが地域で必要とされ続ける存在となる為に協働で実現したいことは3つ。
1つは「市場を大きく活性化させる」、2つめは「お得意先さまの商圏を大きくする」、3つめは「お客さまとの繋がりをより強くする」。この3つを我々の貢献できる領域として、しっかりと専門店さまが持続的に成長できるようサポートしていきたい。
最初の市場を大きくするというのは、ブランド戦略でお話ししたので多くは語らないが、専門店さまでいうとBQセラムであったり、インウイやファンデ美容液というところを、まさに生活者を起点としたイノベーションを保守しながら、市場をより大きく活性化し続けていきたい。
2つめの「お得意先さまの商圏を大きくする」ことについては、オミセプラスやデジタルイベントなどを通じて、より地域の中でまだ出会えていないお客さまなど、商圏を広げていくお手伝いさせていただきたい。3つめの「お客さまとの繋がりをより強くする」点においては、ビューティーキーやSNSなどデジタルツールのコミュニケーションにおいてお客さまとの繋がりを深めていく。
この3つを実現する上で大事な要素が2つ。「PBP(パーソナルビューティーパートナー)の価値向上」と、オミセプラスなどの「デジタル環境の整備やサポートの強化」を実施していきたいと思っている。
まず「PBPの価値向上」では、早期退職の発表のとおり人数減となるが、一方でPBP1人の日数とどれだけお客さまに接客をしたかという統計を行った結果、派遣をしても接客人数がゼロの日がある実態があるなど、お客さまとの出会いが限られた活動となっていることが分かった。
これは全チャネルのデータであり専門店さまに限った話ではないが、こうした事実の中で、当社の大事な資産であるPBPがしっかりと価値提供できる仕組みを再構築しなければならないと考えた。
そこで、いつでも、どこでも、あらゆるお客さまとも接点を持ち、出会いを拡大するために、固定された店舗に派遣し店頭活動に従事するという形から、〝生活者が集まる場所でPBPの価値を最大化〟するという、出会いの場をよりフレキシブルにしていくパターンに加え、デジタルでPBP自らが発信することで、より多くのお客さまとの出会いを図り、そして社会的課題を見据えた時に知見を生かしたサービスを行うことで、よりビューティーは物を売るだけではなく、サービス自体をビジネスにできるような形にできないかと考えている。
そして店舗タイプや店舗ごとの強みを生かした取り組みかつ、効率的な営業体制の取り組みも行っていく。そこを支えるのが「オミセプラス」ということで、より満足いただける仕組みへと強化を図っていく。例えば、手数料を24年6月より低減し、お得意先さまがより一層利益を出しやすい環境を整備することで、これまで以上に専門店さまの利益拡大に貢献していく。
またオミセプラスのショッピング機能やコミュニケーション機能を強化し、お客さまとのオフライン接点だけではなく、デジタル上での接点を強化することによって、より強い結びつきを作っていきたい。
結論として、私たちは専門店さまと共に「肌・身体・心」に関するお1人おひとりのライフスタイルに合わせたトータルな健康美を実現できるお店「パーソナルビューティーウェルネスショップ」を目指し、そのために「互いに自立し、高め合う協働関係」でありたい。
コンベンションでは「共に稼ぎ、共に成長を」という言葉を使わせていただいたが、当社の経営課題について透明性を持って専門店の皆さまに提示し改善に繋げ、逆に言うと専門店の皆さまの経営課題についても我々がしっかりと理解しながら、その課題をどうやって解決していくのかということを1点1点進めていきたいと思っている。
そのためには、100店100様の経営課題があり、もっと言うと、それぞれのお店で「私のお店はこうなりたい」という夢やビジョンもある。それを理解し、教えていただきながらビジョン達成を目指すことが、結果的に生活者の方に感動を与えると信じ、当社は開拓を進めていきたいと思っている。
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