【日本商業新聞 コラム】-714- トランプ関税
- 日本商業新聞
- 5月1日
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尊敬していた経営者が口にした一言で、100年の恋も冷めてしまったことがある。
老境に差し掛かっていた創業者社長の彼は自分の会社の将来を問われたときこう言った。
「自分と一緒に消えてほしい」
会社は自分のもの。その愛すべきものは誰にも譲りたくない。自分の居ない会社など想像できないし、許せない。社員や消費者がどう思おうとかまわない。それが自社愛表現の一つであったとしても、その狭量ぶりにあきれたものだ。
トランプ大統領が暴走している。漫画『おそ松くん』に見境なくピストルを乱射する警官が登場するが、そのキャラそのものだ。やることなすことみな乱暴で、関税と言う根拠のない証文書を勝手に乱発し、ひたすら悪代官を演じている。ついでにマスクという越後屋風情の成金までつけて、恥ずかしげも無く弱い者いじめを続けている。
ひょっとしたら高齢の彼はアメリカを自分好みに作り変え、冥土の土産にしようとしているのではないかとさえ思ってしまう。ロシアや朝鮮半島のトップが追い詰められたときの暴発は怖いが、その懸念をアメリカにもしなくてはならない時代が来たようで、愚かな指導者を選んでしまったツケは測りきれないほど大きい。
ところで多くの評論家はトランプの政治手法をディール(取引き)だと言って、ある面で肯定しているが、そんなおべっかは止めた方がいい。
ディールの背景にいくばくかの人間らしい配慮があるのならともかく、そこには金銭欲と存在欲しかないのだから彼の手法は1%の評価にも値しない。
そもそもディーラーといっても不動産の悪徳ディーラーに過ぎなかったことも忘れてはいけない。ウクライナの大統領を「あなたには交渉のカードがない」と言ってその非力さと政治センスをなじったが、政治とはカードを持たない多くの貧しい人のためにあるもので、カードがなければ無力だと決めつける発想は到底心ある政治家とは言えない。いや人間としても恥ずかしい。
さて世界はこの暴れ犬とどう接していこうかと知恵を絞っているようだが、保健所に捕獲してもらえない以上、獰猛な性格をなだめていくしかない。日本政府は日本にだけ税率を低減してほしいと懇願するようだが、この土下座外交は屈辱的だと言わざるを得ない。
ヨーロッパやカナダのような報復関税は生産的ではないが、暴れ犬には叱ったほうが効果的だと言われていることから、こちらの戦法のほうがすこしは良いように思える。
トランプに「聞いたことのない小さな国」と揶揄されたレソトと言う国には50%の最高の関税がかけられた。団塊農耕派がNGOで支援しているラオスにも48%の関税がかけられた。両国とも縫製品をアメリカに輸出しているが、そこにはこれまで最貧国支援という思いやりがあった。しかしトランプはその絆を大した思慮も無く断ち切った。輸出のために形成されていたネットワークは壊され、製造業者だけでなく農家も輸送業者も路頭に迷うことになる。それがわかった上での政策なのか、無知ゆえの愚行なのか知りたいものだが、次のイジメを考えているトランプはレソトのことなど忘れているだろう。
(団塊農耕派)
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