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【日本商業新聞 コラム】-702- 規制も良し悪し

日本商業新聞

優良企業の自慢の一つに「業界基準よりはるかに厳しい品質基準」というのがある。



団塊農耕派もそう言って胸を張っていた時期があった。でも次第にそれは自己満足にすぎず、消費者にとってメリットのないことだと思うようになった。ましてその手間分が価格に転嫁されるのであれば偽善と言うしかなく、余計なことをしてくれるなと言いたくもなる。



化粧品工業会もその例にもれない。物価上昇も2024年問題も眼中になく、海外薬事などを参考に、積極的に種々の規制を作ろうとしている。朝令暮改に明け暮れる中国より害は少ないが、誰のためのルールなのかわからない時もある。新知見や海外事情を根拠に高い基準が作られるが、それはいつも大手に有利であることは否めない。



例えばサンケア商品が「ウォータープルーフ」を謳うには水浴前後のSPFを測定しなければならなくなったが、これはまさに研究成果を世に問いたい研究者の発想で、2度の測定費用に悲鳴を上げる中小のことを考えていない。業界のレベルを上げることが何よりも大切、中小は一層の努力を重ねてあとから追いてくればいい。そんな風に考えているのではないかと勘ぐってしまう。「李下に冠を正さず」という諺を知らないのだろうか。



自動車メーカーの検査においても手抜きや改ざんが問題になっている。決めたルールを守るのは義務だし、違反したらペナルティを受けるのは仕方ないが、ここでもその裏に潜む現実から目をそらしてはいけないと思う。製造現場のプロたちはこれまでの経験を通してこの程度の手抜きをしても品質は守れるという自信が有ったのではないかと思うのだ。ルールが屋上屋を重ねていたこと、そしてそれが仕事の能率と勤労意欲を下げていたこと、さらにその部分を割愛しても事故は起きていないこと…、そう考えてぜい肉扱いをしてしまったのだと思う。100%で済むルールを120%にして当局に報告、約束してしまった以上、そのルール通りに運用しなくてはならないのは当然だが、そんな優等生すぎるルールを作った先達に恨み言の一つも言いたくなる気持ちはよくわかる。



令和7年にかけてインフルエンザや他の感染症が猛威を振るっているが、クスリの生産が需要に追い付かず、病院や薬局に在庫が無く、多くの患者を不安に陥れている。この機に及んで各製薬会社は生産設備増強の真っ最中と言うのだからお粗末としか言いようがないが、これにも似たような背景がある。



2年前、幾つかの大手のジェネリック医薬品会社が国や自治体に届け出た手順書に従って生産していなかったという理由で営業停止処分を食らったが、その余韻がまだ続いている。国はルールに従って厳罰を与え、メーカーは年貢を納める農民のごとくそれに従い、国民もメーカーの体質を批判する…。そしてお決まりの裁きが下り、この問題は決着したはずだった。でもそうではなく、クスリ不足という余波が押し寄せてきてしまった。



ルール遵守に必要な追加の設備投資、コロナで離れた社員の再募集、原料資材の調達など元に戻す為の時間と労力は並大抵では無いらしい。官憲がちょっとお目こぼししてくれればこんなことにはならなかったのでは、と思うのは不謹慎だろうか。

(団塊農耕派)

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