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【日本商業新聞 コラム】心意気と美学 -682- カスハラとフキハラ

大手航空会社2社が強いカスハラ対策を打ち出した。女性幹部の会見では「もう許さないぞ」という気持ちに満ちていた。


「お客様は神さまです」の思想がどこよりも浸透していて、「触らぬ神にたたり無し」の対応が歴史的に続いていたのだと言う。でも社員の心労を放置し、無抵抗を善としてきた会社トップも非難されていい。


団塊農耕派には後ろめたい前科がある。ずっと正義感に裏付けられた行動だと自賛してきたが、カスハラが社会問題になってくると、あれも恥ずべきカスハラだったのではないかと心配になってくる。


そのころボランティアで何度もラオスに足を運んでいたが、ラオスには直行便が無く、タイでラオス航空に乗り換えなくてはならなかった。ところがJALの職員はタイでいったん荷物を引き取り、預け直すことを強要した。タイの空港は広く、いつも混んでおり、ラオス航空のカウンターは見つけづらく、いつも制限ぎりぎりの荷物を運んでおり、同行者が年配者であることを考えれば、とても無慈悲なルールだった。


同じルートでもANAはラオスまで無条件で運んでくれるのに、なぜJALは…、それが団塊農耕派が強気に出る根拠だった。最初はお願いだった。ところが職員はガンとして受け付けず、そして高慢な言葉を吐く。


「ラオス航空のように荷物管理の十分でない会社にはお客様の大切な荷物は預けられません」。お願いは抗議になり、職員に決定権が無いと言われれば、「上司を呼んでください」と言うことになる。おそらく困った客だと思っていたに違いないが、団塊農耕派は粘った。そして「荷物に異常があってもJALに責任賠償を求めません」という内容の始末書を書いて、荷物をラオスまでスルーさせることに成功した。


このやり取りはラオスへ行くときには毎回繰り返された。チェックインに時間がかかり、他の旅行客には迷惑だったかもしれない。でも同行の年配者には喜ばれた。もちろん団塊農耕派にはカスハラを働いた意識は無く、お客の利便性より自社の責任回避を考えるJALを諌めたつもりなのだが、あれから20年、団塊農耕派は劣勢になってきている。


カスハラもセクハラも定義が難しい。同じ行為でも被験者が快感なら「ステキなおじさん」だし、憎悪を感じれば「セクハラじじい」になる。ブサイクな男には不本意だろうが甘んじるしかない世界なのだ。


また最近は「フキハラ」という新型も登場している。何もしていないのに攻撃性を感じるその不機嫌面が嫌われるのだから、これほど割の合わないものはない。老境に入った政治評論家のTさんや元都知事のIさん、元自民党の幹事長のNさんなど、そのお得意の仏頂面は改めないとひどい目に遭うと自戒したほうがいい。


化粧品会社勤務の頃、速射砲的クレーマーの電話に連日悩まされたことがある。その人は化粧品専門店の奥様だったが、持論の展開と商品の非難がいつになっても終わらず、こちらが非を認めるまで電話を切ってくれなかった。「どんなに良くしても不平をたれる老人のようなもの」と割り切り、とうとう「縁を切りましょう」と言ってしまったが、そのせいでその店が離れて行くことはなかった。


クレーマーもハラスメントの相手も強く出られると意外と弱いものだ。航空2社の決断は正しいと思う。

(団塊農耕派)

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