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【日本商業新聞 コラム】心意気と美学 -677- その日に辞める新入社員

「御社の○○に感銘を受け、入社したいと思いました」 


入社試験の面接官を何度もやったが、学生の多くは入社の動機を爽やかに、そして熱く語る。社内福祉の充実や女性の働きやすさ、CSRやSDGsの取り組みを褒めちぎるケースが多く、やや食傷気味になるが、会社側も決まりきった質問しかしないので、個性的な学生は粗いメッシュを通り抜けてしまう。


肝心なのは5年後、10年後の伸びシロなのだから今はハズレでもこれから育てていけばいいやと企業は鷹揚に構える。採用面接とはそんなものだった。だから採用して直ぐに辞められても会社にはそれほどダメージは無いが、昨今のそのスピードの速さにはあきれていると言う。5月病どころか、入社初日に退社を決めると言うのだから、また度胸が無く、その届けを代行会社に託すと言うのだから、昨今の学生のメンタリティを覗いてみたくもなる。



半世紀前、団塊農耕派にも試練はあった。研究員として採用されたのに配属されたのは板橋区の工場、それも買収したばかりの子会社の工場で体力勝負の日々が続いた。快適なはずの寮は10畳の和室で、同室にはすでに2名の先住人がいた。昨今の新入社員の感覚なら、即日退社もありえたかと思うが、団塊農耕派にその選択肢はなかった。「辛抱」という言葉が若者のために用意されていた時代だった。


その辛抱が出来なくなったと思わざるを得ないが、そういう若者を育てたのは今の優しい社会に他ならない。不登校になりかけの子どもに「学校なんて行かなくてもいいよ」と理解を示す親、就業時間外の付き合いに平気でイヤな顔ができる若手社員、友だちみたいな母娘が理想だと言って娘の欠点を見ようとしない母親…、そんな生ぬるく、叱られない環境で育てられた令和の若者のストレス耐性が、薄いガラスのように脆くてもそれは当然の帰結かもしれない。


皮肉なことだが、この子たちの親の多くは50年前、集団就職で上京してきて、長く辛い修行を経験してきている。なのに自分の子には辛抱の大切さを教えなかった。それどころか即日退社を決めた子どもに改心を迫らない。判断の速さをほめるバカ親までいる。物分りの良いことが子どもを堕落させていることに気づかない。いや気づいても直そうとしない。時代遅れと言われようが親は本音で子と接しなくてはいけない。



会社側の非も責められていい。労働条件などでウソを付いてはいけない。イナバ食品という会社で大量に新入社員が辞めたというニュースが流れたが、給料や休暇など明らかに約束違反が会社側にあったようだ。「入社すれば我慢するだろう」とタカをくくっていたとしたら昨今の学生の気質をわかっていない。ガラスの心臓が割れないようなノウハウを身につけないと会社はこれから若い人材を集められなくなる。


学生の気質は昭和の時代に後戻りしない。これからも続くであろう学生の軟弱で短絡的な判断も神の声として認めざるを得ない。採用方法が終身雇用からジョブ型へ移行する時代、学生と会社の縁は〝出たとこ勝負〟と〝ばかし会い〟にならざるを得ない。採用人事などそのくらいの気軽さでいいのでは。逃した人材を惜しむこともない。

(団塊農耕派)

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