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【日本商業新聞 コラム】心意気と美学 -656- 高島屋のクリスマスケーキ

 1万個の商品を売って2度クレームが来る、それを化粧品会社では万分比2と言って回収の候補に入れられる。現役時代、団塊農耕派はこの万分比という強迫概念にいつも怯えていた。無難な処方でお茶を濁したくない、でもチャレンジングな処方にすれば万分比が2を上回ってしまうかもしれない、研究員は岐路に立つ。


 そこで研究員は思いつく限りの保証テストを行う。不安を一つ一つつぶしていく。100人以上のモニターを集めて安全性のチェックをするのも珍しくないし、壊れやすいものであれば、東京⇔青森のトラック輸送便に載せて往復させてみたり、1メートルの高さから鉄板の上に何度も落としてみたりする。溶けそうなものなら南国に送ってみたり、西日のあたる窓際に蓋を緩めて置いたりもする。旅に出る子供の無事を祈る母親の気持ちと同じだ。


 これらのテストは予想される環境下で商品が変化しないかを調べるものだが、3年後の品質も予測しなくてはならない。そのために多くの加速試験を考案している。実際にはありえない過酷な条件を設定し、その条件下で1ヶ月後に異常が無ければ、あるいは乱暴な使い方に耐えられれば、3年は持つだろうと類推する。最初は当然精度が悪いが、各メーカーは多くの商品でデータを蓄積し、3年後の事実と発売時のデータを照らし合わせてその試験方法の確かさを確認している。だから加速テストの精度は驚くほど高くなっている。



 そんな世界を経験してきた団塊農耕派が驚いたのは、昨年暮れ、高島屋通販のクリスマスケーキが輸送に耐えられずに大量に崩れた事件だ。高島屋や黒猫という一流企業の大失態に世間は驚いたが、その原因がわからないと平気で言う高島屋のトップの感覚に2度驚かされる。数百個のクレームを受けながらその原因を突き止められないとは…。


 クレームを受ければ化粧品会社ではまずは再現実験に取り掛かる。お客の責任の有無にかかわらず、事実解明に全力をつくす。それが商品を提供した会社の責任であり良識だからだ。ましてや莫大な数のクレームをもらっているのだから、その気になれば原因など容易に突き止められるはず。それをしない、あるいはできないのは企業としての危機管理ができていないのか、原因がわかっていて、その上でパートナーを守ってあげようとする誤った思いやりからなのか、いろいろ推測できるが、どちらにしても高島屋の信頼は地に落ちたと思った方がいい。クレームをないがしろにすれば、客は黙って去っていくというシナリオを天下の高島屋が忘れたわけではあるまいが。



 お客がデパートに入るのに靴を脱がなくてよくなったのはたかだか1世紀前のことだそうだ。それほどデパートとは高飛車で、自己本位で、庶民には高嶺の花だった。ところが時代は変わる。デパートがお客に媚び、商品を配達して差し上げる時代になった。偏見だと非難されそうだが、今回の不祥事の原因はデパートが慣れぬ庶民の土俵に降りてしまったところにあるのではないかと思う。「買いに来なければ売ってやらない」「冷凍したケーキなど食えたものではない」と居直ればよかったのである。得意の排他的なマーケティングを封鎖すれば、デパートはますます衰退の道を歩むような気がする。

(団塊農耕派)

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