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【日本商業新聞 コラム】心意気と美学 -644- 化粧品専門店の本分

 団塊農耕派は若手社員に求められる「ほうれんそう」と言う教訓に違和感を持っている。

いや馬鹿げたものだと思っている。報告、連絡、相談が何より大切だと教えられるが、同じ意味の単語を並べただけの薄っぺらなこの言葉に説得力は無い。こんな処世訓に付き合って〝指示待ち人間〟に徹すれば若者は自ら考える習慣とスキルを失い、企業は蔓延するヒラメ症候群により活力を失う。「一枚岩」という言葉を流行らせた化粧品会社があったが、これも時代遅れの発想で、本当の強靭さは個性の異なる多くの岩の集まりだと思う。


 ところで化粧品会社では商品を深く知ってもらうためにセミナーを開催し、多くの小売店が参加する。弁当と土産があって、そのうえいろいろな商品情報を仕入れることができるので小売店に不参加の理由は見当たらない。化粧品に精通し、知識も豊富であるはずの専門店の奥様も例外ではない。しかしセミナーでは「教えてもらう」という受け身の姿勢が強く、その商品に自店だけのオリジナルの価値を見つけるために参加する人は少ない。


 セミナーでは商品の説明のついでに、推奨話法などのソフトもメーカーから一方通行で伝授されるが、よほどの個性のあるブランドでない限り、その内容に新鮮味はない。どこかで聞いたことのある情報を再編集しているだけだ。唯一新鮮なのは、そして喜ばれるのは「成功事例」と称する売り上げに結び付いた他店の取り組み例だ。売り方に不安や疑問を持っていた奥様はその内容に感動し、自分の店でも取り入れようと思う。


 それでいいのだろうか。いくつかの理由で団塊農耕派は〝販売スキルのおすそ分け〟が持つ負の側面を危惧する。


 まずは狭量な発想だが、不公平さが気になる。おすそ分けの恩恵に浴するのはそれまで売り方の勘所を自ら見つけられないでいた勉強不足なお店と、売り上げの底上げを目論むメーカーだけで、情報を提供するお店には何のメリットも無い。著作権や特許権が過剰に守られる昨今の社会通念の中では,いくら共存共栄の美徳が成り立つ心優しい業界であっても、その太っ腹姿勢は度が過ぎている。大切なノウハウは他業界では隠すのが普通だ。


 次に問題視するのは、この横並びの志向がブランドの成長やお店の個性化を阻害していることだ。かつて大手制度品メーカーは「同じ品質のものをどこでも同じ値段で買える」ことを自画自賛してきたが、それはあまりに小売店をバカにした発想ともいえる。小売り店はブランドの成長に一役を担うわけではなく、メーカーの言う通りに売っていればよかった。その結果ブランドはいつまでもメーカーからの借り物に過ぎず、お店のものにならなかった。「マイストアブランド」とは生まれはメーカーでも、育ての親の愛情と新解釈が吹き込まれ、その店なりに価値がユニークに増幅したものが理想なのだが。


 マイストアブランドとは探し求めるものではない。お店が作り上げるものだ。メーカーはハード価値に優れる商品を提供するだけでよく、商品情報や売り方などに深情けになることは無い。小売店も売れる仕組みが用意されたブランドに飛びつくのではなく、無垢のブランドを自分好みに育てていく気概、いや楽しみを持ってほしいものだ。

(団塊農耕派)

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