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【日本商業新聞 コラム】心意気と美学 -622- 社食

 社内食堂を自慢する会社は多いが、子ども食堂のような人道的な動機で食事を提供する会社は少ない。20年ほどまえ、S社は中国に工場を作ったが、中国人従業員にはタダで昼食を提供した。その量たるや国内工場の比ではなく、昼休み中食べ続ける人も珍しくなかった。日中の食文化の差もあるが、食事こそ活力の源泉であることをつくづく感じさせる光景だった。


 そのS社の50年前の工場の昼食風景。食堂入り口近くには10分前だと言うのに既に作業着姿の数人がたむろしている。さっさと食べて運動でもするのだろう、野球のグローブを持っている人もいる。メニューは今日も炭水化物のオンパレード。正体不明の魚の定食メニューは食欲をそそらず、具の少ないカレーか箸の刺さらないほどに詰め込んだうどんの売り場に人が集中している。またそれぞれのテーブルにはおひつが置かれ、ご飯は食べ放題だ。握って持ち帰るつわものもいる。東北地方から集団就職してきた社員はお米の不味さに閉口するが、安く食べれる魅力には勝てず、「質より量」の食事にだんだん慣らされていく。


 それから半世紀、昨今の社員食堂は美味しいし、キレイだし、深情けにも栄養管理までしてくれる。でもなぜか楽しくない。街のおしゃれなレストランを真似ているだけのように見える。量も少ない。米も嫌われて久しい。エネルギーチャージだけが目的だった50年前の食事には戻りたく無いが、カロリーばかりを気にする美食では身も心も萎えていく。


 しかし非正規の社員(派遣社員)がその社員食堂の恩恵にも浴せない時代がつい最近まであった。北関東のある工場の朝の出勤風景だが、彼らは駅前のコンビニで昼食用にオニギリと飲み物を買っている。時給に匹敵する金額が消えていくのだから痛い出費に違いない。でも独身の若者にはその方法しかなかった。


 薄情な経営者だと思う。彼らに同じ職場で働いているという仲間意識があるのなら、この寒々とした光景を見逃しはしないだろう。食堂が混むのなら社員と時間を変えて食堂を開放すればいいし、それもできないのならせめて社員と同額の昼食補助手当を出すとか、いくらでも方法があったはずだが、数年後再びこの会社を訪れたときも、社員は食堂で和気あいあいと、契約社員は屋外のベンチで一人で昼食をとっていた。経営者としても失格だ。派遣社員に無償で昼食を提供する経営的メリットを計算できないのだろうか。僅かな出費で派遣社員のモラールと健康を買えるのに、会社に対するロイヤリティも向上するのに、そしてそれらは生産効率を高め、会社の繁栄につながるのに、事なかれ主義のサラリーマン社長は何もしない。派遣制度の冷たいルールだけは忠実に守る。


 たった1回試験に受かっただけで社員食堂で安いメシを食い続けるパラサイト正社員とボタンの掛け違いでその機会を失った有能な派遣社員、経営者はこの不条理に目をつぶってはいけない。敗者復活戦の道を拓いてあげるべきだ。パラサイトにも刺激と危機感を与えたほうがいい。それは公平であると同時に、会社を発展させる意外な近道でもあることに気付いてほしい。若者にたらふくご飯を食べさせる会社にまずはなってほしい。

(団塊農耕派)

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