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【日本商業新聞 コラム】心意気と美学 -619- アンバランスな成長

 幼児がマンションのベランダから転落する事故が相次いでいるが、専門家は体の成長に脳の成長が追いていかないのがその理由だと解析している。もう十分にフェンスをよじ登る腕力はついているのに、そこが危険だという知識がまだ無い…、「高所恐怖症」と真逆の「高所平気症」なる状態にこの時期の幼児は陥っていると件の専門家は言う。


 このように心身のアンバランスな成長は時に不幸を招く。〝心身ともに健康〟という言葉は安易に使われがちだが、実は含蓄のある言葉で、体力、知力のどちらかが周囲もうらやむ進歩を遂げていても、けっして喜ばしいことではないと思うべきだ。天才児と称えられるIQの高い子どもよりも年相応の平凡な子どものほうが健全だと世の親は悟るべきで、英才教育など不幸を招くだけのことと思って止めたほうがいい。


 笑い話で済むアンバランスな成長もある。団塊農耕派の在籍していた化粧品会社には「頭でっかち友の会」という自虐的な会があり、団塊農耕派も所属していたが、頭でっかちに育ってしまった理由を、「成長をつかさどる神様はまず頭を大きくし、それから体を大きくする。その後もその順序で完成系に持っていくが、ときに気まぐれな神様は頭を大きくした段階で、仕事を止めてしまうことがある。僕たちはそうして作られたようだ」と勝手に解釈して、傷をなめ合ったものだ。幸いこの会にはモテない以上の不幸は訪れず、「脳みそがいっぱい詰まっている証拠」と今でも嘯いている。


 アンバランスは「成長」の過程だけではない。「老衰」の過程でも存在する。認知症は象徴的な例だと考えられる。体力はまだまだ残っているのに知力が一気に失われていく症状は弁舌に尽くしがたい。早くても良いから二つの老衰が同時に始まってくれたらどんなに良いだろうと思う人は少なくない。ひょっとしたら平均寿命の短かった昔のほうが神様は丁寧な人間作りをしてくださったのではないかと思う。人間の場合、脳は遅く開発され、早く衰退していく、そのつもりで人生100年の時代を生きる知恵を求めなくてはならない。


 こじつけかもしれないが、アンバランスの弊害は化粧品業界においてもカタチを変えて存在する。それは顧客にとって望ましいことではない。


 化粧品販売の王道は「お店が商品の特徴や顧客の肌状態を理解した上で販売を始める」であり、これは化粧品専門店の不可欠の良識だが、ネット販売などのセルフ業態ではこの鉄則が無視され、「まずはお客を集め、販売し、求められ時に備えて最小限の商品知識や肌生理を勉強しておく」がまかり通っている。


 商品知識が乏しくても、品質保証ができなくても、何らかの美味しさにつられて商売を始めてしまうメーカーや小売店は危険も知らずに塀によじ登る幼児と同じで、危なくて見ていられないが、残念ながら多くの新参メーカーやセルフ業態がこのアンバランスな状態を自覚せずに顧客と接し、結果として化粧難民を増産している。肝心なのは商品を理解すること、メーカーの美辞麗句以上の特長を見出すこと、お客の肌を知ること…、アンバランスの是正など化粧品専門店ならその基本動作の中で十分にできるはずだ。

(団塊農耕派)

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