コロナの影響で就職試験をWEBでやる会社が増えたそうだが、事件はそんな世相の中で起きた。IT通信技術の進歩の恩恵を受け、受験者の女性は筆記試験中に事前に依頼した第3者から正解を受信していたと言う。
やってはならないことだが、団塊農耕派は不謹慎にもここまで追い詰められた女性に若干の同情を禁じえない。筆記試験に通る自信はない、それでもこの会社が好きで、働きたい、学力以外では負けない自信もある…、わらをも掴む思いだったのだと思う。
この事件では女性が一方的に悪で、企業は被害者と言うことになっているが、これを機に就職試験のやり方を見なおそうとする会社は出てこないものだろうか。より強固なカンニング防止策をつくることで終わってしまうのだろうか。本気で「企業はヒトなり」と思っていて、コロナ禍からの蘇生を真剣に考えているのなら、〝まずは筆記試験で足きり〟という官僚的で、実効の伴わないやり方と決別すべきだと思う。高学歴・高学力で、愛想のいい若者ばかりを採って、企業の成長、個性化を鈍らせてきたこれまでの歴史を忘れてはいけない。
たとえば化粧品会社の開発部門には左脳より右脳のほうが大きい化粧品大好きの若者が集まればよいのだが、実際は業者が作った筆記試験や評価尺を一つしか持たない人事部員の拙速な判定によって合否が成されるので、真にポテンシャルの高い受験生はその尖がりゆえに落とされてしまい、トゲのない優等生風の不良在庫予備軍ばかりがパスして行く。こんなことの繰り返しが企業を衰退させ、らしさを奪っていったわけで、最初の関門が筆記試験であることの是非を、いま一度ベンチに戻って考えてみたらいい。
今回の事件でも「こんなことをして受かっても、苦しむのは入社後の本人なんだから」と分不相応だと冷やかす人がいるが、それは的を射ていない。裏口で入ったって十分にやっていけるものだ。試験に弱いという唯一のハンデを取り除いてあげたのだから、それからは十分にチカラを発揮する土壌が待っている。モラトリアム症候群で大学4年を過ごし、学力だけで通った同期が陥る5月病になどかかることもなく、意外と会社で存在感を示すようになるものだ。考えてみれば推薦入学だって、AO入試だって裏口入学に毛の生えたようなものだ。まともな感覚なら筆記試験で正規に入った人に後ろめたさを持つのが当然だが、その意識が競争心となり、成長の糧となるのだから、胸を張っていればいい。
今回のWEB試験の不正を擁護してあげたいもう一つの背景は、その筆記試験の前にある。昨今は願書の提出はオンラインでするのが普通で、実はその際、文章力に悩む受験生が第3者に代筆を頼むケースは決して珍しくないようだ。これを見て企業が篩いに掛けるのだからまさに御笑い種だが、こちらにはお咎めなしなのだからおかしな話だ。
所詮は企業側の眼力と言うことだ。個性の異なる多くの受験生を一律のメッシュでふるいにかけていいはずは無く、企業が独自に、アッと驚く採用試験法を開発してほしいものだ。それが出来なければいっそのこと先着順にすればいい。この方が熱意があり、健康な若者を採ることが出来る。体育系ばかりを採って成長した会社もある。
(団塊農耕派)
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