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【日本商業新聞 コラム】心意気と美学 -197- 月賦

 フェースブックで世の中批判を繰り返していた同年輩の男が、自分の家族がいかに介護保険に助けられたかを実感し、もう体制批判はやめようかと苦笑していたが、それほど日本の介護制度は金銭面の負担減と言う意味においては素晴らしいものである。


 数年前、母は日常の生活に車いすが欠かせなくなり、ケアマネージャーに相談すると、ほどなく最新式がやってきた。介護保険を使えば市価の1割で買えるが、使い勝手に個人差があるので最初はレンタルにした方がよいと言われ、すべてお任せすることに。毎月千円弱のレンタル料を払うことになった。ところがその申込書をみて驚く。クレジット会社が間に入っており、しっかり手数料が取られる仕組みになっているのだ。もちろん総額は千円をはるかに超える。最近、車の保険でも給湯設備でも、業者にローン使用をお願いされることが多いが、たいていオリコみたいなクレジット会社が絡んでいる。とうとうこんなところにまで入り込んできているのか…、私は言葉を失った。


 ローンはかつては月賦といい、支払いに余裕のない人が使う緊急措置で、好んで使うものではなかった。うしろめたさまで感じたものだった。しかし「消費は美徳」の時代はその負の部分を消し去り、ローンに買い物上手の称号さえ与えてしまった。そしてそこにビジネスチャンスが生まれ、クレジット会社が根をおろしてしまった。


 買い手と売り手の間に入り込んで利ざやをかせぐこの種の会社をどうしても好きになれない。イチローや野茂がオリックスを飛び出した一因のような気さえする。いくらローンが透明性を担保していても私は好んで使わない。支払額が高くなるからではない。一生懸命に頑張っている社員には申し訳ないが、この商売を私は虚業と決めつけているからだ。


 額に汗をかかず他人のフンドシで相撲を取る人はそれなりの節度を持って生きるべきなのだが、事実は江戸時代も今も違う。江戸時代は豪商や札差しが、いまはITや金融関係者が大きな顔をしている。愚鈍な「農」は徳川の時代から「士農工商だから2番目」とおだてられ、変わることのない事実上の最下位を占め続けている。かく汗のわりに報われ方の少ない農業に若者が背を向けるのは当然のことだ。そろそろ一次産業に携わる人が一番偉い、だから収入も高い、という社会秩序ができないものかと思う。


 実はその発想に近いものが意外なところにあった。北朝鮮だ。この国は32の階層に分かれており、一番上が「土地を持たない農民」で、一番下が金正恩将軍だそうだ。日本における士農工商の嘘っぱちのさらに上を行く大偽善が行われている。事実が真逆なだけに、悲惨を通り越して滑稽に映る。


 企業でも同じようなことがあった。某大手化粧品会社の元社長は、サーバントリーダーシップを気取り、自分を組織図の一番下に置いた。働く部下を温かく支えようとする意志の表れだが、実態の見えない神輿の上の社員は最初は戸惑った。それでもこの社長は真摯に実践を重ね、部下に愛情を施した。金正恩とは生きざまが根本的に違った。


 母は亡くなったが、ローンはその後も長くつづいた。

(団塊農耕派)