「あれから40年」は綾小路きみまろの枕詞だが、その間に飛躍的に進歩したものとそうでないものがある。
IT産業が前者の代表例だとすると、後者のそれは悲しいかな化粧品の技術のような気がする。口紅はいつになってもオイルとワックスで固めたものだし、化粧水も保湿剤と油と水のバランスを取っているだけだ。関係者は「職人の世界だからのびしろの少ない業種」だと言い訳するかもしれないが、次の40年がこのままでいいわけがない。
40年前にそのうちできると思っていた商品は何一つ出来ていない。白髪を黒くし枕を汚さないカラーリンス、光線過敏症の子どもが保護具なしで外出できるサンスクリーン、ツヤがあるのに落ちない口紅、本当にシワの無くなるクリーム…、挙げればきりがない。
ITの進歩に比べれば、この程度のことも出来ない我が業界は、地震を予知できない気象庁や原発を制御できない科学者と並んで、「未熟者」のそしりを受けてもおかしくない。なぜこんな体たらくの40年を送ってしまったのだろう。
その最大の要因は研究者が化粧品という住み心地の良い寝床から離れなかったことだ。何しろ化粧品には「肌に効果があってはならない」とする薬機法という守護神が付いていて、研究者の開発マインドを冷やしてくれる。努力してもあなたの住む世界ではその成果は公的に認められないよと念を押されるのだから、研究者が開発意欲を失うのは当然のことだ。
代わりにべらぼうな値段で売っても後ろめたく思わない図々しさを身につけることになる。いま化粧品は株式欄では化学会社に名を連ねているが、その重責に耐えられる会社が何社あるだろうか。未上場がせめても良心なら嘆かわしいことだ。
一方で、研究などしたことがなく、中味などどうでもよい口先三寸の化粧品会社が雨後の竹の子のように現れ、薬事無視の優良誤認ごっこを展開し、業界の良識を崩している。技術を持つベンチャーならその参入は大歓迎だが、そんな会社は見当たらない。みな詐欺師かパラサイトの顔をしている。
とりわけネットで販売する化粧品の大半はウソで固められ、化粧品の価値がわからなくなった消費者がダボハゼのごとく釣られていく。そんな状況なのに業界団体も大手の化粧品会社も指をくわえて見ているだけだ。その背景に前述のような〝化粧品だから目くじらを立てることも無い〟という発想があるのなら、あまりに情けない。
化粧品店も五十歩百歩。大切なお客がネットや口コミに惑わされて有象無象のメーカーに釣られてしまうことを化粧品店は悔しがるが、ある面で自業自得かもしれない。
お客とお店と商品が作る信頼関係が軟弱だったことに他ならず、自らに内在するヒビの原因を探してみることが大切だ。店の経営のために無節操な商品切り替えをお客様に強いたことはなかったか、商品の良し悪しよりも利幅やリベートに目がくらんだことはなかったか、そして何にもまして商品を見る目が劣化し始めていないか、お客やメーカーの無軌道を諌める前に、ベンチに戻って自己チェックをしてみようではないか。
化粧品会社とお客が道に迷いそうになった時、それを正せるのは化粧品店しかない、そんな自覚と自信をもって次の40年を目ざそうではないか。
(団塊農耕派)
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