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【日本商業新聞 コラム】心意気と美学 -193- 職業訓練校理美容コース

 「欧米の経営者は来日すると日本の文化や歴史に興味を示すが、日本の経営者は外国に行ってもゴルフと観光しかしない」そう嘆く経済界のトップが音頭をとって始めた勉強会が『アスペンクラブ』。いろいろな企業から集められた社員が千葉の山奥のホテルで1週間、20冊近い哲学書や古典を読み、議論し、合間にゲストとして招聘される著名なアーティストの文化に浸ると言う高尚な集いで、できればお断りしたい会だったが、なぜか団塊農耕派がそこに送り込まれた。文化的素養の無さを会社はわかっていたはずなのに。


 ここで団塊農耕派はラオスでNGO活動をしているTさんという女性に会う。23年前の夏のことだ。Tさんは招待客だったが、参加費免除以外とりたてて特典は無く、一参加者として勉強会に参加していた。苦痛だったと思う。


 「化粧品会社の人なら、これから現地で作ろうとしている職業訓練の美容コースの設立を手伝ってくれない?」Tさんは休憩時間に唐突にこう言ったが、「ソクラテスの弁明」や「学問のススメ」で気分が高揚していたこともあって、二つ返事で承諾してしまった。 


 そんな約束をすっかり忘れ、団塊農耕派は仕事に戻っていたが、その間、帰国したTさんはラオスで着々と外堀を埋めていた。あれはリップサービスだったとはいまさら口が曲がっても言えない。ラオスで多くの人が待っているようだ。動かざるを得なくなった。


 ところが外面の良い会社ほど石橋を叩いても渡らない。団塊農耕派の会社も例外ではなかった。商品の供給を当てにしていた部門も、美容部員の派遣をお願いするつもりだった部門もなかなか首を縦に振らない。団塊農耕派のように単純な動機や一時の感情で動く人種ではないのだ。結局、団塊農耕派が横柄だったせいもあるが、会社からは全面協力は得られずじまいだった。しかし周りに理解してくれる社員が沢山いたので、「やってしまおう」ということになり、会社を代表するような顔をして活動を始めてしまった。


 それから20年以上いろいろなことをしたが、会社は私のやることにそれほど文句を言わなかった。見逃してくれた。おもてなしの作法を教えに行った2人の美容部員も、寮の設計に行った系列会社の社員も、彼らの上司には事後通達だけで済ませた。強引だったが事前に出張伺いを立てれば停滞が待っているのだから、そんな無駄な時間は作りたくなかった。


 活動資金稼ぎのために銀座で民族衣装のファッションショーを何度かやったが、これも会社の許可など得ていない。自分の部署の社員を動員して就業時間中にやってしまった。ファッションショーのモデルなど恥ずかしくてやれないという社員にはお酒を飲ませ大胆になってもらった。明らかに就業規則違反だが、だれも後ろめたさなど感じなかった。


 資生堂の美容学校には会場を借りるだけでなく多くの教えを請うているが、元校長は「ラオスの職業訓練校で学ぶ生徒のマインドをうちの生徒に学ばせたい」と言い、最近来日した訓練校一期生でラオスで起業している女性は「娘をここで学ばせたい」と言う。世界で一番進んでいる学校と遅れている学校が「美容」という一つの共通項でつながりを持っている。そう考えると強引に突っ走った23年は無駄ではなかったとつくづく思う。

(団塊農耕派)